あの日あった出来事は一生忘れられないだろう……
「夢野はまだ引きずってるのか」
「えっ、私そんなに深刻そうな顔してた?」
授業が終わり、ざわつく教室内。確かにさっきあの時の事考えていた。名前も年齢もどこに住んでいるのかも分からないあの人。
確かあれは私達が一年生だった時。
友人である潔子がバレーボールのマネージャーをやると言うので、何となくバレーボールに興味が出て、大会の応援として行くことになった。
けれど、方向音痴の私は迷子になり烏野高校の試合を見ることが出来なかった。
迷子になって彷徨い歩くなか私は見てしまったんだ。
ガランとした小さめの体育館。そこには一人の男子が居た。彼は必死にボールを追い続けていた。入口にいる私に気に留めることなく一心不乱だった。
滴る汗と真剣な眼差しに私は釘づけになった。見ているだけで鼓動が早くなった。
彼は私に気づくことなく反対側にある出口から出て行ってしまった。彼はどこの高校なのだろうか。今となってはどうしてユニフォームを覚えておかなかったんだと後悔している。
「……名前も年齢も分かんないのにね、バカみたい」
「そうか? 俺はロマンチックでいいと思うけど」
そんなことより部活来るんだろ? と澤村は言った。もちろん行く、行くけど……
「私まで練習に付き合わせないでよね」
「す、すまん……」
昨日は練習に付き合ってと言ってボールを上へと淡々と投げることをしていた。今日は筋肉痛で腕が痛い。
「ま、いいけどね。可愛い弟のためだもの」
弟と言っているけれど、本当の弟ではない。
「ななこせんぱーい!!」
「ぬわっ!」
体育館に着くなり抱きついてきたのは子犬……ではなく、日向翔陽だ。私とはお隣さんで昔はよく姉弟に間違われたものだ。
私は翔陽みたいに体力はないから、一人暮らしをしている。
それにしても、どうして昔みたいにお姉ちゃんって呼んでくれないのか……若干寂しかったりもする。
「いやー今日もあんたたちは元気ねー羨ましいわ、本当」
「おいコラァ! 何勝手にななこさんに触ってんだ」
私と翔陽をはがしに来るのはお決まりの二人。田中とノヤだ。いつもの光景を見ているとあー青春っていいなと思ってしまう。
「今日も練習お願いします」
「あー……うん、分かった。頑張るよ影山君」
影山君の眼力に勝つことは出来なくて、今日も私は練習に付き合わされることになった。
20140521