俺はあの日見てしまったんだ。彼女があの男と一緒に帰っている所を。やけに仲が良く、俺は二人を遠くから見ていた。見たくはなかった、けれど、足が思うように動かなかった。
胸が切り裂けるように痛く、黒い感情が渦を巻く。嫉妬をするなんて俺らしくない。彼女と出会ってから俺らしくないことばかりしている。
そう、さっきもだ。いつものようにロードワークに出てあの公園の前を通った。彼女と待ち合わせた公園、遠い昔のように感じた。
彼女には恋人がいて、俺の一方的な気持ちを受け入れてくれただけだった。
俺は立ち止まりジッと公園を見た。ブランコには人がいた。その姿は彼女
に似ていて、話しかけずにはいられなかった。
「・・・こんな時間に1人か?」
「あっ・・・・・・」
ライトに照らされ、その人が彼女だと分かった。久しぶりに見るななこはあの時よりも顔色が悪く、痩せて見えた。はやる気持ちを抑えて俺は彼女のことを名字で呼んだ。
「夢野さん」
「えっ?」
ななこは驚いていたが、だんだんと顔色が悪くなり、瞬きが多くなっていく。
「あの、わ、若利さんあの・・・・・・」
「無理して俺の名前を呼ばなくていい。それに、恋人に悪い」
恋人以外の男の名前は呼びにくいだろう。どうして俺は分からなかったのだろうか。
もう、彼女の顔は見れなかった。
これ以上彼女と居たら、ななこを抱きしめそうになってしまう。
彼女から俺のことを拒絶してほしかった。そうしたら、きっとこの気持ちは忘れられる。
けれど、彼女の言葉は拒絶ではなかった。
「恋人って……」
その後の言葉は聞き取れなかった。俺はそのまま学校に戻り、頭から水をかぶった。
「俺のことを嫌いだと言ってほしいだけなんだ」
大嫌いだと言ってくれ。そうしたら俺は……忘れられる、だろう。
20140627