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「よし、次スパイク!」
鵜養コーチの声が体育館に響く。潔子は選手が何本打てたかを数えている。一方私は仁花ちゃんと一緒にボール拾いだ。

それにしても凄い迫力だ。遠くから拾っているにも関わらず、たまに流れ玉が向かってくる。そのたびに誰かしらが注意してくれる。特に重いボールはWSの三人だ。

あれに当ったら気絶してしまうかもしれない。
わか……じゃなくて牛島君の役割はどこだっけ。確か……

「夢野っ!」

「えっ? どうし……っ!!」
声と同時に我に返ったが、遅かった。ボールはゆっくりと私の方へ向ってくる。ゆっくりに見えるのは私だけで、他の人からみたらかなり早いボールなんだろう。

私は何も反応できず、額にボールがあたった。鈍い痛みと真っ白になる頭。体育館が騒がしくなる。

「夢野、大丈夫か!」

「……う、うん。少し痛むけど、大丈夫だから」

額がジンジンと痛む。東峰が泣きそうな顔をしている。

「私がボーっとしてたから悪いの、だから皆練習に戻って」
練習は出来る時にやっておかないと、と私を心配そうに囲む皆に言い聞かした。仁花ちゃんが保健室から貰って来た氷が入った袋を額に置いた。

「よし、練習再開」

澤村の声が体育館に響いた。私は体育館の端に寄り休んでいた。私練習の手伝いに来たのに、逆に邪魔になってしまった。これじゃあ意味がない、後で何か差し入れでも持ってこよう。

今は少しでも練習をすることが大事なのに……

練習が再開し、終わった頃には痛みもひいていた。

「俺が送っていくから支度しておけよ」

「えっ、いいよ。疲れてるでしょ?」

片づけが終わり、澤村が私に近づいてきた。主将の務めだから気にするなと言われたが、気にする。

「夢野、素直に大地に甘えておきなー」と遠くからスガの声が聞こえた。ほらと私に手を差し出した。私は、その申し出に甘えることにした。それに、どんなに私が何か言っても彼は聞き入れないだろう。本当に澤村は優しいなあ。

「……分かった。じゃあ、よろしくお願いします」

おう、と彼は返事をした。私はいそいそと支度をし、体育館を出た。仁花ちゃんの姿を探すが、どこにもいなかった。

「あれ、仁花ちゃんは?」

うん? と澤村は私の方を向いた。

「谷地ならまだ残るって言ってたな」

「ええっ!」
仁花ちゃんがいるものだと思っていたのでなんだか寂しい。
その反応を見た彼は不機嫌そうな顔になった。

「なんだよ、俺だけじゃ嫌なのか」

「そういうわけじゃないけどさー」

それから他愛もない話を二人でした。そして私の住むマンション前で別れる。

「ここまでありがとうね」
「当ったところは大丈夫みたいだな」

澤村は自然な手つきで、前髪をかきわけ私の額をさわった。あまりにも突然なことだったのでびっくりしてしまった。

「あ…う、うん。痛みも引いたしダイジョウブダヨ」

「何で最後カタコト何だよ……もしかしてまだ痛むのか?」

「本当に大丈夫だから、ね」

私は一歩後ずさり彼から離れた。彼はそれならいいと呟いた。そして私は彼と別れ、家に帰った。

「……うーん」

鏡と睨めっこをしながら額を触る。赤くなっていないが、少し心配だったりする。
そういえば、牛島さんの役割ってどこだっけ。忘れないうちに聞いておかないと……

「思い切ってメールで聞いてみようかな」

メールの文章を作成し、送るか送らないかで迷う。送って返事が来なかったら、返事が返ってきても面白い話ができるかどうか……いろいろなことを考えたら送れない。

ベッドの上で考えていたら寝てしまっていた。起きてベッド脇に落ちていた携帯を拾い上げる。そこには送信済みの画面が出ていた。

やってしまった、送ってしまった。返信はまだない。時計を見ると、朝の6時だった……



20140621


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