13
「ななこー?」

「あっ、佐和子」

この子は友達の佐和子。同じクラスで大体は二人で行動している。
授業が終わり、ざわざわとクラス内がざわつく。購買へ走る生徒もいれば、机の上でお弁当を広げ食べ始める生徒……

私は授業が終わっても佐和子に話しかけられる前まではぼけーっとしていた。

「なんか、朝からおかしいよ。どうしたの」

「えっ! 何も、何もないよ」

えへへと佐和子に笑みを浮かべ、話を変えようといそいそとお弁当を広げた。けれど、鞄の中にはお弁当が入っていなかった。

あれ、朝ちゃんと鞄の中にいれたはず……

「テーブルの上だ……」

「ななこが忘れ物なんて珍しい…これは何かあったね?」
ぐっ、鋭い。これは根ほり葉ほり聞かれるパターンだ。仮に佐和子の目はキラキラ光っていた。

「実は……」

私は昨日のことを掻い摘んで話した。

「それってもうカップルじゃないの!! あの不器用なななこがねーいやーよかったよかった」

「もうっ、だからカップルじゃ…」
佐和子は私の肩を叩いた。彼女はまったく私の言葉を聞いてくれない。彼女はお弁当を広げ、私は頭を抱えた。お腹がすいた。

「ほら、これ食え」

「えっ?」
ほいっと置かれたのは購買のパンが二つ。焼きそばパンとメロンパンだ。
見上げればそこにはパンを大量に抱えた澤村の姿があった。

「珍しいね、澤村がラーメンじゃないなんて」
「ま、たまにはな」
彼は私の隣の席にパンを置き、椅子に座った。隣の席の子は前の方で友達と話に花を咲かせているところだった。

「でも、本当にいいの? パン食べるんでしょ?」
「お弁当忘れたんだろ? 遠慮しないで食えって。それに、部活に顔出してほしいからな」

その言葉に佐和子はそれって餌付けじゃんと突っ込んだ。

「あっ、じゃあ今日は最後まで練習に付き合うね」

そう言うと彼は笑顔で「楽しみにしてる」と言った。その後、彼と三人で他愛もない話をした。
予鈴が鳴ると、澤村は自分の席に戻り、授業の準備を始めた。

佐和子は澤村の姿を見ながら、私に耳打ちをしてきた。

「澤村君さ、ぜったいななこのこと好きだよね」
「えっ?? 佐和子何言ってるの」

澤村は基本的に誰にでも優しいし、私のことはマネージャー手伝いとしか思っていないだろうし、あり得ないなぁ。

「澤村君いいと思うんだけどなー」
「あり得ないってば」

佐和子はもったいないと呟きながら自分の席に戻った。

それにしても、昨日の出来事がインパクトありすぎてそれどころじゃない。
あの後、結局解散したのは日が沈んでからだった。夜に携帯を開くと彼からのメールが届いていた。それはたった一言だったけれど、嬉しかった。

メール一通だけでこんなに嬉しい気持ちになるなんて。今、牛島君も授業中なんだろうか……
家に居る時も、学校にいるときでも頭の中は彼のことでパンクしそうだった。


20140618





prev next

戻る