映画を見終わり、外に出た。上映中は彼の隣にいると思うとドキドキして映画どころではなかった。でも、映画の中で出てくる動物にはとても癒された。
「出てきた動物可愛かったね」
「……そうだな」
「牛島君?」
映画館を出て駅前通りを歩く。はぐれないようになのか、彼は自然と私の手を握った。
「夢野さんの方が……」
「えっ?」
「……少し休むか」
そう言って彼は近くのアイスクリーム屋さんに入った。ここは女性に人気のアイスクリーム屋さんで、一度は私も食べてみたいと思っていた所だった。
彼はさっき何を言いたかったのだろうか。
時間が遅いからなのか、店はそこまで混んでいなかった。私は種類が多いメニューの中で人気メニューの苺のアイスを選んだ。もう一つの人気メニューはチョコレートで、少し気になった。
「苺とチョコレートを一つずつ」
彼が店員さんに頼んだのは意外なものだった。甘いのは苦手そうなイメージだったので、バニラとかミントかなと思い込んでいた。
「チョコレート美味しい?」
苺は人気メニューなだけとても美味しかった。彼はただ淡々とアイスを食べて行くので、美味しいのかイマイチ分からない。見た目からとれることはすごく濃厚そうなチョコレートだということだった。
「食べるか?」
彼はスプーンにアイスを乗せて私に差し出した。
「いいの?」と聞くと彼は早くと目で私を見た。
私は思い切ってアイスを食べた。濃厚なチョコレートな味が口の中に広がる。美味しい。
「美味しい……」
彼はそうだろうと、フッと笑った。
ほどよい甘さで女性だけでなく、男の人にも人気なのだろう。
「そう言えば、今日はどうして私を?」
ピクリと彼の眉が動いた。
「……これを渡そうと思ってな」
彼のバッグの中から出てきたのは小さな小瓶。そう、調味料で人気のあれだ。それがどうかしたのだろうか。
「この間夢野さんを助けた時にポケットに入ったみたいだ」
「あっ、この間の! ありがとうございます!」
確かにあの日、帰った時買ったはずなのにないなと思っていたんだっけ。
それにしても、牛島君は私の名字を言う時言いづらそうだな……
「……今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「そうか、良かった」
店を出てあの待ち合わせの場所に自然と足が向かう。私達は歩きながら何も言葉を交わさなかった。でも、それがしっくりときて、居心地がよかった。
「ここで大丈夫です。あっ、私あそこのマンションなので今度遊びにきてください。それと……私、ななこって言います。嫌じゃなければ、名前で呼んでください」
「いいのか?」
「牛島さんが呼びにくそうにしていたので」
そうかと、どこか嬉しそうな顔をしながら彼は頷いた。
だんだんと彼の表情が読み取れている気がして嬉しかった。
「なら、俺のことも名前で呼んでくれないか」
「……!? い、いいんですか?」
ああと彼は言った。私が彼の下の名前を口に出していいのだろうか。でも、彼が呼んでくれって言ったんだし、ここは頑張って名前で…
「……わ、若利さ、ん」
ボソリと彼の名前を言った。恥ずかしい。ここから逃げてしまいたい。
どうして何も言ってくれないのだろう。
私は彼の顔を見た。彼は頬を染め固まっていた。顔が赤いのは夕日のせいだろうか、それとも……
「何だか、恥ずかしいですね……」
「あ、ああ……」
それじゃあと繋いでいたどちらかともなく手を離した。
でも、どちらも動こうとしなかった。
……このまま時が止まればいいのに
20140616