彼にプレゼントを渡したくて、部活の手伝いをそこそこにスーパーのセールがあるからと苦し紛れな言い訳を言って切り上げてくる。
私を頼ってくれる翔陽や影山君には悪いが本当のことは言えない。澤村やスガには分かっているんだろうけど・・・・・・
「ななこ、今日も彼を待つの?」
「うん、今日で三日目だけど・・・諦めないよ」
潔子はそうと私の答えに満足しマネージャーの仕事を続ける。私はいそいそと体育館を出てあの場所へと急ぐ。
「諦めない、か・・・・・・」
潔子にはそう言ったものの、プレゼントを渡したら彼との縁も切れてしまうんだろうなと、何となくだが思ってしまう。
そんなの嫌だな・・・・・・もっと彼のことを知りたい、緊張せずに楽しく話したい。どうして彼の近くにいたり、彼のことを考えるとこんなにもドキドキしたり顔が熱くなるのだろうか。
もしかして、これって恋ってやつなのかな?
「ううん、違うよね。私のはただの憧れなんだから」
錯覚なんてしない。この気持ちは憧れからくる気持ちなんだ。
「もう五日目か・・・・・・」
「・・・・・・ななこ?」
「あっ、何でもない。じゃあ私はあがるね。お疲れ様!」
潔子は何か言いたそうだったが、口には出さなかった。
呆れられてるかな。心なしか教室で会う澤村の顔が怖くなっている気がする。心配してくれてるのかなー?
夜遅くまで待つことはないけれど、今日だけは待ってみようと思う。
「今日渡せなかったら、縁が切れちゃったってことだよね」
ここは潔く諦めよう。彼と少し話せたことだって凄いのに。
「あ、雨・・・・・・」
ぽつりと手の甲に落ちてきたのは雨粒か、それとも涙か。
「私・・・・・・泣いてる」
上を向いたら雨がポツリポツリと降ってきた。傘は持ってきていない。マンションはすぐそこだが、もしこの一瞬で彼がここを通ったらと考えたら動くことは出来なかった。
「今日雨なんて言ってたかな」
潔子が言いたかったのはこのことなのだろうか。
雨はだんだん強くなる。プレゼントは濡れないように鞄の中に入っている。
「……会いたいな」
体が冷たくなってきた。街灯の明かりもポツポツと着き始めた。今何時なのか時計がないので分からない。そろそろ限界かもしれない。
でも、もう少し、もう少しだけ……
「……っくしゅん」
「ここで何をしている」
くしゃみと同時に彼の声が聞こえた。最初は幻聴だと思った。でも、幻聴ではなく、本物の彼だと分かった時胸が高なった。
「あ……あの、これどうぞ。それじゃあ、私行きますね…っ!?」
「……ずっと待ってたのか」
早くここから逃げようと、無理やり彼にプレゼントを渡した。しかし、私はそこから動くことができなかった。なぜなら、彼が私の腕を掴んだからだ。
私は彼の顔を見ることなく、下を向いていた。今の酷い顔を彼に見せたくなかったからだ。
「あ、の……」
「濡れてる」
そう言って彼は二重にして巻いていたタオルを一枚取り、私の頭に乗せた。
「このプレゼントは貰う理由が見つからないのだが…貰っておかないと、ここから動かなそうだからな」
「牛島さん……」
彼はそう言って少し笑ったように見えた。そしてすぐいつもの顔に戻りじゃあなと走り出してしまった。
「あっ、タオル……」
いつの間にか雨は小雨になっていて、タオルはそんなに濡れていなかった。私はそのタオルを手に取り頬に当てた。
彼の匂いがした。
「……私なにやってんだろう」
これじゃあ、変な人みたいじゃないか。ふと我に帰り、家に帰った。タオルを借りた?おかげでまた彼と会うチャンスが増えた。
どうしよう、何だか胸がドキドキする。
あっ、そうだ。そう言えばあの袋の中に電話番号の書いた紙を入れたような。
でも、あっちから電話してくれる保証はなく、私は待つだけ。今日はダメでも明日とか明後日とか……電話してくれたらいいな。
「っ!!」
その時鞄に入っていた携帯の着信音が鳴った。私はびっくりして携帯を一度床に落としてしまった。すぐに拾い、ボタンを押した。
20140608