また今日も愛猫を連れて外に出た。本当は学校から帰ってきてすぐ連れて行ったほうが明るいし、いいのだけれど。
でも、この猫はこの時間に外に出るのが好きで闇の中を歩くのが好きみたいだった。確かに昼よりも夜のほうが人に会わなくて済むし、子供にも合わなくて済む。きっとこの猫が昼の散歩を嫌いになったのは、珍しさのあまり子供たちに毎回触られるからだろう。悪気はないのがわかるので、私から注意はできなかった。
「うーん、今日もいい天気だったなぁ」
そういって空を見上げても今は夜なので、空はもちろん暗い。公園のブランコに座り、リードを離す。すると、猫も私の隣のブランコに座り器用にバランスをとっていた。
「お守り見つかるかな……」
なくしてしまったお守り。いったいどこで落としたのかわからない。学校中探したがどこにもなかった。
それに、今日は月島君とも会った。昔は一緒に遊んでいたのに、今じゃまともに話すこともできない。昔は対して気にしていなかったが、とてもかっこよくなった。もう会うこともないだろう彼のお兄さんは元気だと言っていた。それだけ聞ければ十分だ。
「明光お兄さん……」
昔を思い出してはふっと涙がこぼれた。初恋は叶わないものなんだと誰かが言っていた。本当にその通りだった。
淡い恋心はあっけなく散った。妹のような存在だからと言われ、それからと言うもの恋というのがよく分からなくなった。
あのお守りはその時の私を見ていたはずだ。ギュッとお守りを握りしめ、泣いたあの日。そして、学区外に引っ越してから平凡に過ごしていた。何の刺激もなく、ただ淡々と毎日が繰り返していく。
「でも、烏野高校に入れてよかった」
影山君とも出会えたし、友達もそれなりにいる。そして、私の隣には猫がいる。それで十分のような気がした。
「……泣いてるのか?」
「っ!? か、影山君!」
足音もなく、私の前にいたのは影山君だった。私は驚いて固まってしまった。こんな泣いているところを見られるなんて、恥ずかしい。
「これ」
影山君が差し出したのはスポーツタオルだった。
「少し汗臭いかもしれないけど、これで拭けよ」
そういって強引に私の手にタオルを乗せた。影山君は顔をそむけ私の顔を見ないようにした。
「……ありがとう」
私は好意に甘え、タオルで涙を拭いた。そのタオルは彼の言う通り少し汗臭かったが、それでも私にはうれしかった。
「これ、夢野さんのだって聞いたから・・・っ、部活終わった後走ってここに来たんだ」
そう言って影山君が私に手渡したのは無くしたはずの御守りだった。
「・・・これっ、本当に・・・影山君ありがとう!」
私は嬉しくて影山君の手を握ってしまった。影山君は突然のことでびっくりしていた。
「本当にありがとう」
にゃーんと猫も鳴き、彼は少し笑ったような気がした。まるで猫も影山君にありがとうと言ったのではないだろうか
「・・・おう」
影山君は私に何か言いたげだったが結局何も言わなかった。
その日はそのまま彼とは別れた。
20141128
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