本当にあの時間に来るのだろうか。それに、影山君は部活なんじゃないだろうか。
猫は私の膝の上で寝ている。

「悪い、遅れた」

「あっ・・・」

噂をすればなんとやら。猫は私の膝から降りて声の方へ向かった。まるで挨拶をしにいくように。

「・・・・・・お疲れさま」
「・・・・・・おう」

声を絞り出して影山君に言った。ちゃんと聞こえたようで、彼は返事をしてくれた。

「触っていいか?」
影山君の視線は猫に注がれていた。猫はしっぽをピンと立て喜んでいた。
影山君は猫と視線を合わせるために屈んだ。

そして彼はゆっくりと猫の頭に触ろうとする。その間が長かった。影山君はゆっくりと手を頭に近づける。

そんなに怖がらなくても噛まないのになあと思いつつ、その様子を見守った。


「にゃあん」

猫はじれったくなったのか自分から頭を手に擦りにいった。あまり私の家族以外には懐かないのに、影山君にだけは懐いている気がする。いいことのような、いいことじゃないような。
こんな所を他の人に見られたらと思うと冷や汗が出る。
影山君はかっこいいし、運動もできるし、無口だけど優しいひとだと思う。と言ってもこの間席が隣になって、だんだんと影山君の面白い一面が見られたりするので楽しみだったりする。

影山君ファンクラブがあるのかは分からないが、あったら殺されそうだ。

「……」
「影山君?」

影山君は猫の頭に手を乗せながら私を見た。その顔は今まで見たことがないような照れている顔をしていた。なんだかその顔が可愛かった。

「猫も喜んでるみたい」
猫はゴロゴロとのどを鳴らし、喜んでいるようだった。影山君は頭だけではなく、喉元や、しっぽの付け根などを優しく触っていく。猫が好きな人に悪い人がいない、そう私は考えている。

「今日は…ありがとな」

公園の時計は8を指していた。そろそろ帰らないと親が心配する時間だ。

「あっ、私もう帰らないと……」
「……送ってく」
「……え?」

え、今影山君は何て? 聞き間違いじゃなければ送ってくって…

「だ、大丈夫だよ。私の家すぐそこだし影山君練習で疲れてるだろうし」
「疲れなんて吹っ飛んだから大丈夫だ」
と影山君は優しい目で猫を見た。

「……う、じゃあお願いします」

もしかして猫と少しでも一緒に居たいからじゃ…と思ったが考えないことにした。
喜ぶように私と影山君の周りを歩く猫にリードをつけた。

「……持つ?」
私の持つリードを羨ましそうにジッと見てくるのでつい聞いてしまった。彼は瞳を輝かせ、頷いた。


20140625


prev next


戻る