その日は体育館の点検らしくいつもよりも練習が早く終わった。いつもよりも早いと言っても30分くらいしか違わなかった。
「……猫」
俺の目の前には猫がいた。ただの猫じゃない。その猫には首輪がついていてそれにはリードがついていた。犬じゃない、猫なのに。
「猫おいでー」
少女の声がした。猫はその声を聞き、俺を無視して公園の中に入っていった。俺は気になって公園に足を向けた。
「よしよしっと。もう少ししたら家に帰ろうか」
少女が話しかけると猫はにゃーと鳴いた。まるで少女と会話をしているようだった。
「お、おい……」
「え、えっ! えっ?」
いつも猫には逃げられるので、遠くから話しかけた。けれど、逃げたのは猫ではなくて少女の方だった。猫はなんのよう? と俺に話すようににゃあんと鳴いた。少女は何故か体をガタガタと震わせていた。
よく見ると烏野高校の制服を着ていた。
「お、おいっ」
「あ、あの……もしかして影山く…ん?」
にゃーんと猫は鳴き、俺をちらりと見てから少女の足元へと向かった。
「お、おう……お、お前は?」
公園のか細い光に照らされるのは顔を赤くした少女と真っ白い猫。
「私、夢野……」
語尾が弱弱しくて聞き取れなかった。彼女の近くに行こうと歩みを進めた。
「そんなに近づかなくても、だ、だ大丈夫だからっ! そんなに近づかれると私殺されちゃう」
――殺され? 何のことだ?
彼女の顔は赤くなったり青くなったり大忙しだった。
「っく」
「わ、笑いごとじゃ……」
その顔を見ていると笑いがこみあげてきた。バレー以外で笑うなんていつぶりだろうか。
「大丈夫だろ夢野」
そうだ、思い出した。こいつは同じクラスの夢野だ。たまに新しいマネージャーの谷地さんと一緒に喋っている子だ。たぶん。
「か、影山君」
俺は未だにおどおどしている夢野を置いておいて、俺は猫に触ろうと手を出した。
「……っ!」
猫が俺の指を舐めてくれた。感動だ。よし、この調子で頭を……
「あっ! 猫ちょっと待って」
触ろうと思ったら猫は公園の出口に走っていってしまった。
彼女は猫を追いかけて行ってしまい、暗い公園には俺一人。
……明日休み時間にでも猫のことを聞いてみるか。
20140522
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