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引き受けてから三日経った。だが、まだ先生からは連絡がない。
どうしたのだろうか?もしかしたら、他の人に連絡がついたのだろうか?
それならば、一言連絡くらいくれてもいいはずなのに……
「ななこ様、お茶はいかがですか?」
「ああ、文子さん。もうそんな時間でしたか……文子さんも一緒にどうですか?」
「ななこ様、今日はしゅうくりいむに挑戦してみたのですが……」
文子が持ってきたお盆の上には少し焦げた菓子が二つあった。この家にお手伝いに来
ている文子さんはとても気立てがよく、気に入っている。
「今日は美味しそうにできたじゃない」
この前作った焦げたしゅうくりいむよりも美味しそうにできている。
「さっ、どうぞ」
サクッとした皮に甘くないクリーム。文句なく、美味しい。お店が出せる菓子だ。
この間、宮ノ杜家から送られてきたコーヒーによく合う。
「うーん、美味しい!やっぱり、文子さんは料理の天才ね」
こうして文子さんの手料理を食べていることが幸せすぎて仕方がない。先生も一回で
いいから食べたらよかったのに。残念だ。
おやつも食べ、お腹が膨らんだあと、私はやりかけの編み物をしていた。その時、文
子さんが私を呼んだ。来客のようだった。
客間へ急ぐとそこにはコーヒーを飲みながら考え事をしている先生の姿があった。
「先生、お待たせしました」
「えっ、ああ! すみません、考え事をしてまして……」
私に気付いた先生はカップを置き、姿勢を正した。
「作家なのだから、思う存分考え事をしてください、私はここから逃げませんから」
「すみません、気をつかわせてしまって。お話ですが、明日から取材をさせていただ
きたいのですが……」
明日、急だなとは思ったがなぜだがそこまで嫌ではなかった。部屋もかなり空いてい
るし、足りないものを買い足すくらいで準備は終わりそうだ。
「わかりました。お手伝いの文子にも言っておきましょう」
「それで、明日は何をする予定で?」
明日……うーんと考える。たまには外に出てみようかなと思いついた。先生と一緒な
ら、安心だし何よりも一人じゃない。
それに、気分転換にもなる。
「街にでも行きましょうか」
いいですねと先生は顔を明るくさせた。そこまで嬉しがることもないのに子供みたい
だ。
20131017
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