「もう…離さないから」

涙声でロキは繭良に言った。
繭良の瞳からは大粒の雫が流れ落ちる。


「ずっとロキ君に会いたかったよ…」

繭良の記憶は完全に消えたはずだった。だが、それは神と関わった時の記憶のみ。
依頼人や、垣ノ内といた記憶はある。それは、ぽっかりと穴の開いた記憶。

一体垣ノ内は誰と話しているのか?新山警部は誰に相談しているのか、パパは誰のことを話しているのか…それがずっと繭良の不思議だった。

「夢に出てくるロキ君って言う子はいないんだと思ってた…思い出せそうで、でも、思い出せなくて…私っ…」

「君の知っているロキは大人になって帰ってきたよ」


ロキは腕を離し、繭良の目線に合わせた。
頭を撫でながら唇にキスを落とした。
それから、ロキは自ら人間界に落ち、元あった燕雀探偵社よりもずっと小さな探偵社を作った。
その探偵社はまるで三匹の子豚に出てくる藁の家のようだった。

そんな隙間だらけのボロボロの探偵社に毎日元気に来るのは…

「ロキ君こんにちはー!今日も元気に不思議ミステリーよ!」


「相変わらずだね、繭良」

「当たり前だよ、ロキ君!あっ、蛇さんにワンコも元気だった?」
繭良はそう言ってフェンリルを撫で、ロキの方を向いた。

「今日も依頼ないのかな〜?」

「…来るよ」

え?と繭良は首を傾げ、ロキはフッと笑った。

「僕は探偵だからね」

それから数時間後依頼の手紙が来た。



end
20130605
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