ここに来るのは何度目だろうか?
学校の帰り道でもないのに、なぜか足が自然とここに向かう。何にもない、だだっ広い空き地なのに、どこか惹かれる。まるで魔法にかかったみたい。
ーーーーあれ? でも何か大事なことを忘れている
何だろうと思い出してみても何も思いさせない。毎晩のように見る夢は断片的にしか思いだせないが、ここの敷地に大きな洋館があって、ミステリーに溢れていた。そして、私が大好きな人がそこに住んでいた。
でも、その人の名前や姿はおぼろげにしか覚えていない。
「ねえ、パパ。あそこの大きな空き地って昔何かあったっけ?」
「空き地・・・・・・? あそこには何もなかったはずだが、繭良?」
「ううん、なんとなく思っただけだから気にしないで」
繭良は何でもないと少し大げさに手を振った。操はその姿を見送った。この頃繭良の様子がおかしいのに気づいていた。どこか上の空で、誰かのことを考えている。それに毎日空き地の前に立ち止まってぼーっと何かを考えている。
そんな姿を見て何かしてやりたいと思うのが親の気持ち。
けれど、何をしてやればいいのか皆目見当がつかない。「繭良に何をしてやればいいんだ・・・・・・」
操は亡くなった愛する妻に話しかける。操と妻と小さい頃の繭良が写っている写真が仏壇に飾ってあった。
「写真・・・・・・」
部屋に戻った繭良は机の引き出しから写真を出した。その写真には繭良しか写っていない。
「私空き地でピースして・・・・・・笑ってる」
彼女はどうやってそこに入ったのかも分からない。あそこは門は固く閉ざされびくともしない。柵から見える景色はどこにでもある空き地・・・・・・
そして不自然に空いた隣。まるで、繭良の隣には誰かがいたようようだ。今では信じられないくらい笑顔で、その顔がまぶしくさえ思える。
繭良は鏡に向かって笑ってみた。けれど、その笑顔はいびつで偽物の自分を見ているような気分にさせられた。
鏡は引き出しの奥にしまい、ベッドに寝ころんだ。このごろ寝付きが悪い。眠ろうと思って目を閉じても、寝れない。
「明日もあそこに行ってみよう・・・・・・」
繭良は写真を自分の隣に置き、目を閉じた。
ーーーー神様がもしいるのなら、あの人に会わせてください
夢の中で出会う彼に会いたい
「っ!!」
繭良は新聞配達のバイクの音で目が覚めた。時計を見ると三時過ぎだった。
繭良はベッドから飛び起きた。
「夢見てない・・・・・・」
繭良の顔が徐々に青くなっていく。夢とはきっと彼女が会いたがっている人のことだろう。
繭良はもう一度寝ようと毛布をかぶる。しかし、眠れない。繭良はそのまま朝まで悶々とベッドの中で丸くなっていた。
その日の繭良はいつも以上に元気がなく、覇気がなかった。操は体調が悪いなら休みなさいと言ったが、聞き入れることはなかった。
「また・・・・・・来ちゃった」
暗い顔で繭良は言った。門の前で立ち尽くす繭良はギュッと握り拳を作った。
よし、と小さな声を出し、繭良は門の柵を開ける。意外 にも簡単に開き、繭良は驚いた。
「管理人さんでも来てるのかな?」
そう自分に納得させ、震える足で歩いていく。
「何だろう此処・・・初めて来たのにすごく懐かしい・・・・・・」
いつもは門から覗き見る程度で入ったことはないはず。それなのに、どうして・・・・・・?
繭良は小屋の残骸を愛おしそうに撫でた。
「っ・・・・・・」
繭良の瞳からは大粒の涙が流れ出る。
「どうして・・・・・・」
繭良は地面に座り込んでしまった。座り込んだ彼女が目にしたのは蛇だった。しかし、一番驚いたのは犬の鳴き声と・・・・・・
「我が探偵社へようこそ」
男性の声だった。
「泣かないで、繭良」
「どうして私の名前・・・・・・」
男性は繭良の身長に合わせて屈み、頭を優しく撫でた。繭良は涙を拭い、男性と目を合わせた。
「だって僕は探偵だからね」
だから、笑ってと男性は繭良に言った。
その日から繭良は例の夢を見なくなり、睡眠不足も解消された。
「美少女名探偵として今日もがんばっちゃおー!ねっ、探偵さん!」
「今日も繭良は元気だね」
男性は、はいはいと軽く流しつつ書類を読んでいく。男の顔は緩んでいた。ちゃんと聞いてよーと頬を膨らます繭良もなんだかうれしそうだった。
「神様って本当にいるのね」
「そうだね、いるかもね。人間染みた神様が・・・・・・ね」
うんっ! と繭良は笑顔で答えた。
20140115
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