ここは北欧学園高等部、2年Aクラスの教室だ。
大堂寺繭良はあくびをしながら先生を待っていた。

繭良の席は窓際の一番後ろの席だ。朝の日差しが暖かく眠気を誘う。繭良は昨日夜遅くまでオカルト雑誌を読んでいた。そのせいで朝起きるのが辛く、うつらうつらしている。
気を抜けば机に突っ伏して寝てしまいそうなほどだ。

「はーい、みなさん今日は転校生を紹介します」

闇野先生は元気よく教室に入ってきた。転校生と言う言葉だけでガヤガヤと教室内はうるさくなる。闇野先生は静かにしてくださいと注意をした。
静かになった所で教室のドアが開いた。

「邪神ロキです、どうぞよろしく」

入ってきたのは小さな男の子で、ランドセルが似合うような容姿だった。
しかし、この学園ではそんなに珍しいことではない。見た目が何であれ学力などがあれば入れてしまうのだ。

「それではロキ様、席は繭良さんの隣です」

「分かったよ、闇野く・・・・・・じゃなくて闇野先生」
 
ロキは言われた通りの席に座り、隣をみた。ばっちり目があった。

「ロキ君って呼んでもいい?」
「いいけど、君の名前は?」

繭良はあっ! と自分の名前を名乗っていないことに気づいた。

「あっ、ごめんね。私、大堂寺繭良。これからよろしくね」
「繭良、あのさこんな時に言うのもあれだけど・・・・・・昨日夜寝てないでしょ?」

ロキは繭良の顔に近づいた。

「ち、近い・・・・・・」

繭良の頬は赤くなった。だが、ロキは涼しげな顔をしていて、慣れているような感じがする。
慣れていない繭良は何もできずただ固まっていた。
女子からの視線が痛い。

「ど、どうして分かったの?」

どもりながら繭良はロキに聞いた。ロキはそんなの簡単さと繭良の鞄を指さした。
そこには繭良が昨日読んでいたオカルト雑誌が入っている。

「ど、どうしてここに私が昨日徹夜で読んでいた雑誌が入っているって分かったの!」

繭良は目をキラキラさせ、ロキに聞いた。

「僕は探偵だからね」

ロキはそう答え、繭良の目はより一層輝く。
そして、鐘がなり朝のHRは終わった。転校生と言えば恒例の机を取り囲んでの質問責め大会だ。女子生徒が我先にと詰め寄せる。なぜか、隣のクラスや学年が違う生徒まで参加している。

弾き出されるような形で教室から出された繭良はその様子を眺めていた。

「凄いなあの転校生」
「あっ、光太郎君」

繭良に話しかけてきたのは同じクラスの垣之内光太郎だった。光太郎君の後ろには女の子がたくさんいた。光太郎君は学年一、いや学園一のプレイボーイと称されている。だが、本人はあまりそう感じていないようだ。

「ね、凄いよね〜」
「そうだな、気が合いそうだから話しかけたいんだがあれじゃあな・・・・・・」

光太郎はロキの方を見た。そこには笑顔で答えるロキの姿があった。ま、後でいいかと光太郎君はその場を去った。きっと行き先は屋上だろう。

「光太郎君またサボリか〜」

光太郎君がまともに出ている授業は少ない。チャラそうに見えるが頭はいい。

「ロキ様はこちらですか?」
「あっ、レイヤちゃん。ロキ君と知り合いなの?」
「レイヤ、ロキ様にたくさん助けてもらいましたからお礼を言いたくて・・・・・・でも、無理そうですね」

レイヤの手の中にはかわいくラッピングされた袋があった。

「それじゃあ、私がロキ君にお昼休みレイヤちゃんが裏庭で待ってるから来てねって言っておくよ」
「本当ですか繭良さん」

うん! と繭良は胸を張って答えた。
ありがとうですとレイヤは繭良に頭を下げた。ちょうど予鈴が鳴り始め二人は教室へと向かった。

「やっと終わった・・・・・・」
「お、お疲れだねロキ君」

予鈴が鳴ったことで生徒は慌てて自分の教室に帰っていく。疲れた表情を浮かべるロキはふうとため息をついた。

「あっ、そうだロキ君・・・・・・」
 
繭良はさっきの話をした。ロキはわかったと返事をした。

「次はオーディン先生の数学かぁ・・・・・・」
「繭良、数学嫌いそうだね」
「うっ・・・・・・」

どうしてと言い返そうとしたが、繭良よりも先にロキに言われた。

「繭良は分かりやすいからね」
「もう! ロキ君たらひどい」

ロキは少し笑い、繭良は頬を膨らませている。二人はまだ会ってから数時間しか経っていないと言うのに、まるで何年も一緒にいる友人のように打ち解けていた。

しばらくすると先生が教室に入ってきて授業が始まった。

それから特になにもなく授業は終わった。



20140119
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