許嫁はおじ様好き [ 21/21 ]

「婚約破棄はしない、絶対にな」
「私は絶対にあなたとなんて結婚しないから」

 玄関前で口げんかを始める男女。その周りには止める者はいない。呆れてため息をつく者がほとんどだった。

「玄一郎様がお亡くなりになられたのなら、破棄という選択は有りでしょう?」
「お前にあるわけがなかろう。ななしは俺の妻になると言うことは決定事項だからな」

 お互い一歩も引こうとしない。どうしてこうなったのか、それは数十分前ななしが宮ノ杜家に訪ねてきたのが発端だった。ななしが宮ノ杜家に着き、大きな声で勇様との婚約は破棄にすると言ったのだ。
 またかと半ば呆れ気味の宮ノ杜家長男の正はその様子を遠目から見ている。他の兄弟は茂に進、雅が二人を見ていた。

博は興味ないもんと言って部屋に閉じこもってしまったし、守は締め切りに間に合わせるために机にかじりついている。

「なぜ俺と結婚したくないのだ!」
「いつも言っているじゃない、その横暴なところとか、とにかく全部が気に入らないのよ! それに、私は玄一郎様みたいな渋い人が好きなの!」

ななしはフンと勇から顔を背けた。勇は思い当たることがあるのか黙ってしまった。

「あーあ、勇兄さん黙っちゃったよ」
「自業自得だね。あー馬鹿らしい、僕もう寝るから」

じゃあねと雅は一人その場を後にした。それを見た三人は顔を合わせて一人一人その場を去った。残ったのは勇とななしだけだ。

「どうしてそんなに私に固執するのよ」
「好きだからに決まっておろう」
「な、何よ急に・・・・・・」

ななしは動揺したのか目を泳がせた。それを見た勇は強引にななしを抱き寄せ首もとに顔を埋めた。

その瞬間、ななしは石のようにかたまってしまった。

「俺が年をとったらお前が好む男になる。だからそれまで待ってはくれぬか」
「・・・・・・少しだけ、少しだけ待ってあげる」
「素直ではないな、お前も」

大きなお世話よ! と力付くで勇を押し返すがびくともしない。ななしが動くたびに勇の柔らかい髪が首もとに当たり、ゾクゾクさせる。
ななしの顔は赤く染まっている。
勇はそっとななしを離し、顔をみてくつくつと笑った。

「わ、笑わないでよ・・・・・・」
「少しは若い男に抱かれるのに慣れたらどうなんだ?」

そうななしは若い男性が苦手で、恋をするのは決まってななしよりも一回り、二回り・・・・・・上の男性だった。しかし、恋をしても叶うことはなかった。この婚約だって下心があったから承諾したのだ。もしかしたら、玄一郎様の最後の妻になれるかもしれないと・・・・・・

それが、どうだろう。その思惑は見事に外れてしまった。恋い慕っていた玄一郎様は死に、残ったのは好きでもない息子との結婚。
年齢的には一回りほど違うのだが、ななしのストライクゾーンには入らなかったようだ。

しつこいアプローチを受け何回か食事などに出かけたが、勇に心が向かないのであった。

「こうやってななしに触れていいのは俺だけだ」
「勇様・・・・・・」

ななしは跳ね返すことを止め、勇の思うとおりのことをさせてやることにした。

(仕方ない、このわがままをずっと聞いていてあげよう)



20140113

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