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大学に気になる生徒がいる。私の講義を人一倍輝かせて聞いている熱心な生徒……最初はそう思っていた。けれど、ある日彼が分からない所があるというので私の研究室に聞きに来た。その時は彼の事を生徒としか見れなかった。
「せーんせっ、ここ分かんないんだけど」
「どれどれ……ああ、今日やった所ね。これはね……」
私は宮ノ杜君の持ってきたノートを見た。そこは今日講義でやった所だし、そこまで難しくない所なんだけれど……この間の小テストでは満点を取っていた宮ノ杜君が分からないなんて。今度の講義の時にでも皆にアンケートをとってみよう。
「ねえ、ななし先生ってさ、彼氏とかいるの?」
「えっ? いきなりどうしたの?」
急な質問に私は目を上げると、目がばっちりあった。宮ノ杜君は私に近づき目を合わせる。その瞳は何故かうるんでいて、まるで子犬みたいだ。宮ノ杜君は私から目を離そうとしない。
気まずい雰囲気に私は苦笑いを浮かべた。まさか真面目な宮ノ杜君がこんな質問をするなんて。もしかして、好きな女の子でもできたのかもしれない。もし、恋愛相談だったら私……答えられない。答えるとしたら雑誌で読んだことをそのまま言うしかない。だって私は彼氏居ない歴=年齢だから……
「恋愛相談なら任せてって言いたい所だけど、私あんまり経験がないから……力になれなくてごめんね」
あんまりではなくてまったくないの間違いだけれど、この年齢で恋愛経験ゼロって言うのも恥ずかしい。
「そっか、じゃあ先生は今フリーなんだ」
宮ノ杜君は私から目を離し、私の後にまわった。
「先生いつも大変そうだから肩揉みしてあげるよ」
「本当? 私、今結構凝ってんだよねー」
私じゃ相談相手にならないのだと判断したのだろう。ふう、良かった。ああ、でも彼氏って一度でいいからほしいなぁ……
特に高望みをしているわけでもないのに、おかしいな。
私より10歳以上上の人で知的な人、そしてエプロンが似合う人! が私の理想なんだけど……どこにいるのやら。
このまま独身でもいいんだけど、やっぱりね。一度でいいから作りたいなとは思うんだけど、教授達は既婚者ばかりだし、合コンもピンとくる人はいないし……
「うーん! そこそこ! はぁー……宮ノ杜君凄く上手いね」
「本当? じゃあ、ここは?」
「んんっ……くすぐったい、そこ耳元じゃない。もうっ」
宮ノ杜君の手で耳の後ろをなぞられただけでぞわっとした。
「うーん、じゃあここは?」
「ひゃっ!」
ぴちゃりと耳元を舐められ、その水音が聞こえた。びっくりもしたし、何だか胸がドキドキとしてきた。
「ななし先生って、耳弱いんだ。じゃあ、もっとしちゃおうかな?」
「み、宮ノ杜君っ! だ、ダメよ、こんな……んん…ふっ」
宮ノ杜君は私の制止の声には応じてくれない。彼の手は私の胸元にあり、いやらしい手つきで撫でまわしている。
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