16
重い瞼を開けると、自分の家のベッドの上だと言うことに気づいた。
おかしなことに、私はドレス姿だ。いつ、ドレスなんか着たんだろう?と起きたばかりの働かない頭で考えた。
「あっ、昨日はタクシーで家まで帰って来てそのまま寝ちゃったんだ。」
そうだ、思い出した。昨日は宮ノ杜家でパーティーがあったんだ。それで私は散々躍らされ、とても恥ずかしかった。今思い出しても顔が赤くなるほどに。
「着替えよう」
昨日は疲れた…本当に今日が休日で良かった。それにしても、夢を見ているようだった。
でも、普通の生活をしている私には少し退屈と言うか…見るものすべてがキラキラしていて、ああやっぱり違う世界の人間なんだなってことが、嫌でも思い知らされる。
けして、憧れているわけではない。お金がたくさんあるからと言って100パーセント幸せとは限らないのだから。
「うーん…それにしてもこれ返した方がいいよね?」
自分的には綺麗に畳めたドレスをテーブルの上に置いた。
「それにしても肌出すぎじゃないかな、これ」
こんなに肩が出たものを着ていたなんて…昨日は忙しすぎて気づかなかった。
「宮ノ杜さんから貰ったドレスはそんなに露出ないんだけどなぁ」
ちらりとクリーニングの袋に入り壁にかかっているドレスを見た。
「うん、やっぱり返してこよう。アクセサリーもあるし…」
そう決めた私は身支度を整えお昼過ぎに家を出た。
「あれ?」
気になったのは取られていない朝刊。もう、お昼も過ぎたのにどうしたのだろうと思ったが、こんなこと口に出したらお節介だと言われるだろう。
それに、どこか旅行か仕事が立て込んでいるとか…きっとそういったことなんだろうと自分を納得させた。
宮ノ杜へ向かうと進君に出会って驚いた。
あっちも驚いたようで、とりあえずバルコニーでお茶でもしませんかと誘われた。
「まさか進君が宮ノ杜の人だなんて…」
「由紀子さん、そんなに謙遜しなくてもいいですよ。」
「でも…」
はははっと笑う進君を横目に私は出されたコーヒーを飲んだ。
「変に気を使って貰う方が嫌ですから…それに兄さん達に言いたいことをズバズバ言うのはあなたぐらいですよ」
それって、私が常識知らず知らずってことにならないだろうか?
「勇兄さんは誰にでも自害しろとか言って怖がらせるんですが、あなたはそんなそぶりも見せなかった。だからあんなにも勇兄さんから気に入られているんだと思います。」
気に入られている…?その言葉に少し戸惑った。
確かにこの間は一緒に踊ったけれど、それとこれとは違うんじゃなかろうか?
それにあれは半分ダンスができない私を馬鹿にしていた気もする。
「由紀子さん…」
「す、進君っ!顔近くないかな?」
微笑みながら近づく進君の顔。
「オイ、進っお前一体何を…」
扉が開き、入ってきたのは宮ノ杜さ…うん?一体どうしてここに?もしかして…
「ああ、正兄さん。どうしたんです?そんなに息を切らせて。由紀子さん、ここにクリームついてますよ」
進君は頬を指し、さっき私が食べたシュークリームのクリームがついているらしかった。
「えっ!?あ…本当…」
急いで手鏡で確認すると、そこにはクリームがついていた。
「柏崎、行くぞ」
「えっ!?あ、あのっ」
クリームを拭った所で、手首を掴まれた。
その手は熱くたくましかった。
「あんな正兄さん見るなんて初めてかもしれないな」
進は二人が出て行った後、冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
20130618
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