12
「これどうぞ」と出社前に渡された一枚の封筒
会社に着き、中を確認すると食事券が2枚入っていた。しかも自分の行きつけのレストランだ。
「2枚か」
誰かを誘うにしてもまず相手がいない。紀夫?男二人で行って何が面白いのか。
いつもはふらりと行ってカウンターで一人酒を飲むだけ。やはり誰かにやるしかなさそうだ。今日の帰りにでも屋敷に寄ってみるか・・・
仕事が珍しく定時に終わり屋敷へと向かった。この時間なら大佐がいるだろう。
「お帰りなさいませ正様」
「大佐はどこにいる」
「テラスだと思いますが・・・」
そうかとだけ正は言い使用人には目もくれずテラスに行った。
テラスに着くとそこには酒を嗜む勇と茂がいた。二人は正が来るなり眉をひそめた。
「正兄さんいきなりどうしたの」
「珍しいではないか」
勇は振り向かずグラスを置き、空のグラスにワインをついだ。そして茂はそのグラスを正に渡した。
正はそのグラスを取り、一瞬考えた末一口飲んだ。
「甘いな・・・」
「貴腐ワインだからな」
たまにはよかろうと勇はまた一口、口に入れた。
しかし正はグラスに入った黄金色の液体を睨みつけテーブルの上に置いた。
「大佐にいいものをやる」
正はテーブルの上に封筒を置いた。その封筒を見た二人はなぜか不思議そうな顔をした。
「あれ?なんで正兄さんがコレもってるわけ?」
「ああ、俺もそう思った。確かこれは柏崎由紀子に頼まれて茂に取らせた食事券のはずだが」
勇は正の顔を盗み見しふむと頷いた。
「まっ、宮ノ杜姓で屋敷外に住んでる人って正兄さんくらいしかいないもんね」
「いじりがいのある奴と隣同士とは笑止」
茂は笑いを堪えるのに必死になり、勇はフンと笑いまた酒を飲む。正は状況が飲み込めずフリーズしていた。
「由紀子ちゃん誘って行けばいいんじゃない?それか雅にでもあげるとか。雅はあの日一日中不機嫌だったからさ」
男の嫉妬ってこわいよねーと笑いながら茂は言った。
「お前たちどうして柏崎のことを知っているんだ」
「どうしてってねえ?」
「俺はこの間屋敷で迷子になっていた由紀子を拾ったのだ。話しを聞けばあやつは御杜の担当だと言っていたが・・・聞いていないのか?」
勇はグラスをテーブルに置き正をじっと見た。その目はどこか挑戦的であった。正は勇の話しにじっと耳を傾け、ふむと顎を触った。
「聞いてないな。そもそもただのお隣さんの情報なんて知って何になるんだ」
「そうか、ならばこのチケット俺が預かっておくとするか・・・手を離さんか正!いらんのだろうが」
正は勇の手から封筒を奪い取り懐にしまった。茂は意外そうな顔をしていた。
「・・・私はもう帰る」
「フン、勝手にするがいい」
正はそう言ってテラスを後にした。
残された二人は正が来る前と同じように酒を飲み始めた。そして、そこに学校から帰ってきた雅が入ってきた。
「雅、残念であったな」
「正兄さん由紀子ちゃんと行くって残念でした〜」
「ふん!別にあいつと行きたいなんて言ってないし!」
「どうだかな」
雅はふん!と怒りながらどこかにいってしまった。茂はその様子を見ながら大爆笑をしていた。
「それよりも勇兄さん、よく由紀子ちゃんの相談に乗ったね」
「暇だったのでな」
「あの勇兄さんがね・・・」
珍しいものを見るような目で茂は勇を見た。勇は気にした様子もなく空になったワイングラスをジッと見ていた。
「オイ!日本酒持ってこい」
「は、はいっ!」
近くを通りかかった浅木はるはいきなりの大声に驚いたが、急いで日本酒を取りに行った。
「勇兄さんまだ飲む気なわけ?」
「無論だ、お前も飲むであろう?」
「・・・じゃ、じゃあ俺進君でも連れてこよーかな」
「よかろう」
ふーと茂は安堵のため息をつき急いで進の部屋に行き、無理矢理つれてきて飲ませたのだった。
20130403
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