「ねえ、皇毅知ってる?」
何かたくらんでいるような、そんな顔をして晏樹が聞いてきた。
「何がだ」
「えー知らないの?有名な一座が帰ってきたんだよ」
帰り支度をしながら、手だけ動かし考えた。そういえば、そんな話をしている官吏達がいたなと思い出した。
「一座?ああ、旅芸人のことか?」
「そう、巷じゃかなり有名だよ。旺季様も好きみたい。」
「あの旺季様が・・・」
それは珍しい。旺季様が気に入る舞台、いったいどんなものなのか。少し見てみたい気がする。
「それに新しい子が可愛くてね、それ目当てにくる人もいるって」
「・・・」
やはり晏樹の狙いはそこか。いつものことながら、呆れてしまう。
「ああ、あとさその子と組んでる人も美形で人気が高いみたいだね」
「美形の女か?」
「いや、美形の男さ」
美形の男なら女は夢中になるだろう。顔も大事だが、一番大事なのは顔じゃない、実力だ。
「見に行けば分かるよ」
そう言われ、嫌々晏樹に連れていかれた。
***
「女の客の方が多くないか?」
周りを見渡せば女、女・・・男はちらほらと見えるくらいだ。話が進むにつれ、話の内容が分かって来た。どうやら悲恋のようだ。
[私はまだ君のことをしらない、だからその顔を見せて]
[いや・・・いやよ・・・だって私なんて]
[可愛いよ、どんなに着飾った女性よりも君の方が何倍もきれいで可愛い。私が保証しよう、さあ・・・行こう]
そこで客席からは女の悲鳴が多数あがった。なぜならば、二人は舞台上で口づけを交わしたのだから。
そして幕が下り、終わった。
あふれんばかりの拍手に、感極まって泣く客、そして立ち上がり目一杯拍手をする者、いろいろいた。
まるで、違う世界に来たみたいな気分にさらされた。
「どうだった、初めての演劇は」
「ああ、思っていたよりも良かった。」
本心だった。演技もよかったが、あの男の歌が良かった。
低すぎず、高すぎず、中性的で役にあっていた。
「へー、皇毅がそこまで言うなんてね」
明日は雨が降りそうと晏樹に言われた。
そして晏樹から一杯飲まない?と誘われたが、断った。あいつと飲むと何時に帰れるか分からなかったからだ。
なので別々に帰ることにした。
「演劇か・・・っと」
角を曲がると、誰かとぶつかった。それほど衝撃もなく、女だろうと思った。
「・・・すみませんでした」
「おい、待て」
女だと思っていたが、男だったようだ。それにしても聞いたことのある声だと思い、ひきとめてしまった。
「何です?私、今忙しいんです。」
「あ、ああ・・・すまない」
男の腕を離そうとした時、野太いが聞こえた。一人ではなく、複数人の男の声だった。
「チッ、あいつらまだついてくるのか」
男はそう言い放ち、今度は私の腕を取り、引っ張った。
「どこに行くんだ!」
「私とあんたじゃ勝てないだろ、だから逃げるんだよ!」
しかし、時遅しでいつの間にか男に追いつかれていた。後ろを向けば、強面の男が睨みをきかせる。
「あんたらの目的は私だろ、早くかかってきな」
「・・・威勢のいい嬢ちゃんだ」
”嬢ちゃん”その言葉が頭に残った。こいつ男なんじゃ・・・と私を庇って前に立つ男をまじまじと見た。
「女・・・?」
髪は短いが、胸に不自然な膨らみがある。男らしくはないし、声が中性的で、男とも女とも聞こえる。
「やっちまいな!」
「止まれ!これ以上近づくと捕縛する」
とっさの一言を放ってしまったが、もう後にはひけない。
「あんた、なにを・・・」
黙ってろと目で合図を送る、男?は分かったと後ろに下がった。
「私は近衛兵の隊長だ、罪もない民を追い回すとは言語道断、即刻捕縛する。」
ヒイィと男たちは震え上がり、逃げた。
「・・・すまない、助かった」
男?はそそくさと立ち去ろうとするが、逃さないように腕を掴んだ。さっきは気づかなかったが、細い腕で折れそうだ。
「お前、女だろう?」
「・・・なぜ、そう思う」
冷たい目が私を見上げた。
20121210
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