「分かっているだろうな」
「・・・はい。心配をおかけしまして申し訳ありませんでした。」
薄暗い室の中、私は師匠と向かい合っていた。私の後ろには美蘭がいた。私は手を後ろで縛られていて動くことができない。美蘭はずっと黙っている。
「お前には失望した・・・しばらく外出禁止だ。」
「・・・はい」
外出禁止。それがどんなに重い罰なのかよく分かっている。ずっと監視され部屋も用がないとき以外は出ることができない。舞台が終われば2、3人が私を囲み逃げられないようになる。
いつその令が解かれるのかは私の師匠である座長が決めることだ。師匠はとても気分屋で誰も逆らうことができない。一回でも刃向かえば座長である師匠に殺されるのが目に見えている。
「それと千秋楽だが、三日後にした。かなり急だが、いつものことだ」
「・・・次はどこへ行くのですか」
「次か?次は碧州だ。ここから近い、それにうるさい奴らもいないしな。」
碧州、芸術に長けている州であり劉一座にとって碧州は療養目的に行くと言うことと同じ。
もう、紫州には当分こないだろう。なんたって次に来るのは一年後か、二年後か分からないから。一つのところに長くは留まらない。それが一座の風習だから。
「話は終わりだ、美蘭後は頼んだ」
はいと短く美蘭は返事をし、私と美蘭は室から出た。
「ごめんなさい、香蘭姉様」
美蘭はぽつりと呟いた。当たりはすでに暗く夜になっていた。歩くたびに美蘭は謝罪の言葉を繰り返す。
「美蘭、いいのよ。私が悪かったんだから。だから自分を責めないで。」
「でもっ!私は・・・」
私の室に入るなり、美蘭は崩れ落ちた。
「私は姉様の役に立ちたい、姉様のっ・・・」
「美蘭・・・ごめんね」
美蘭は泣き続けた。私はなんとか紐を取り彼女のそばに寄り添い、頭をなでた。
「私があなたを一座に誘ったばっかりにこんな」
「私は姉様に助けられたんです。だから姉様のためならなんだってしたいんです。でも、今やってることは姉様を苦しめること・・・」
だからと美蘭はそこで押し黙ってしまった。私はもう彼女の悲しむ顔は見たくなかった。
「師匠・・・いえ、今の座長はあなたを受け入れた。それがどんなことだか分かる?」
「いえ・・・」
「師匠は才能があるものしか入団を許さない。才能がないものは下働き以上にはなれない。どんなに舞台に出たくても出ることはできない。だから、私は師匠を尊敬してるし、恩人なのよ。」
「・・・分かり、ました」
美蘭は師匠に強い不信感を抱いていた。でも私はそれに気づかない振りをしていた。いつか美蘭が不安に押しつぶされて息ができなくなっても私は気づかない振りをしていただろう。でも、そう心に決めていても私にはできなかった。
どんなことがあっても彼女は笑っていた。そんな彼女が泣くなんて。それも私のことで泣くなんて・・・・
「美蘭、ありがとう。これからも私と共に芝居をしよう」
「・・・はい!」
これから一生美蘭のような素晴らしい相手役には会えないだろう。美蘭はしばらくしてから室を出ていった。
「皇毅・・・今何をしているんだろう?」
一人になるとあの人のことを考えてしまう。もう会うことはないあの人のこと。いつも外に出ると出会う皇毅。最初の出会いから気になっていた。きっとこれが最初で最後の恋。
きっと皇毅は私のことなんてなんとも思っていない。私のような女のような男なんて眼中にない。皇毅は容姿もいいし、身なりからしてかなり高貴な人に違いない。私のような奴隷からの成り上がりなんて・・・
「もう一度だけ顔が見たい」
でも・・・見たら別れが辛くなってしまう。このままでいい。このままのどちらも傷つかない選択で
私たちは友達、なんだよね・・・
それ以上でもそれ以下でもない。自分で友達だと言ったのに今では言葉の呪縛から離れられない。
今の私では友達以上にはなれないのだから。
私にひかれた一本の芝居道。その道を反ることはできない。
20130215
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