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「どこ…?」


ここはどこなのだろう?味わったことない寝心地、それに着たことも見たこともない着物…


(でもふかふかで気持ち良かったなぁ)

体を起こし、恐る恐る地面に足をつけてみた。見たところ木で出来ているようだ。

(もしかしてどこかの貴族の方に拾われたのかしら?)


それにしても見たことがないものばかり。わくわく気分と不安な心が混ざる。
でも大丈夫、きっとなんとかなる。なんとかして私の家を…


「目が覚めたのか」

「……き、きゃああああぁぁっ!」


な、な、なんで?どうして男の人が?

え、え、え?もしかして私処刑されるの?

「落ち着け!」


男は耳をふさぎながら怒鳴った。私は泣きたくなった。

「私を捕まえるんですね…」


「……何を言っているんだ。」

「えっ?だってあなた様は兵…に見えませんね…」


あれ?この人のかっこうが変。直衣を着ていないし、烏帽子だって被っていない。
褐衣でも、直衣・束帯でもない。この人のかっこうは奇抜だ。



「それよりも、お前はどこから来たんだ」

「どこ…と言いましても…」

うーん、困った。正直に言ってもいいのだろうか?正直に言ったら殺されるか、捕まって突き出されるかのどっちかだ。

そんな私の心を読んだのか、男は口を開いた。


「何をそんなに怯えているのか分からないが、私はお前を捕まえて殺したりはしない。そんなことをしたら私の一生はおしまいだ。」


え?人を殺したら一生が終わるの?褒美が貰えるの間違いじゃないかしら? だって罪人を捕まえた者には金が貰えると聞いたことがある。


「あの…ここは一体どんな所なんでしょう?」


「私の家だ。ついでに言っておけば、今の西暦は―…」


その後、男からいろいろ聞いた。今、ここが何年でどんな世界なのか。


「平安京へ戻る方法はないのでしょうか…」

「平安京って言うと…平安時代辺りから来たことになるな。お前の頭が正常ならな」
その言葉にムッとした。まるで、私が頭がおかしくなったみたいな言い草だ。

「これからどうするんだ。」


「そうですね…」


どうしよう。ここは私が居た平安とは大分違うようだし…私には行く当てがない。


「仕方ない、少しの間だけここに住め。それで、こっちの生活に慣れたら一人で暮らせ。分かったな」
「あ、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません!」


「忘れろ」

「えっ?」
私はとっさのことで聞き返してしまった。男は私から目線を外した。

「…一時の感情なんてすぐに忘れてしまう」

「そんなことありません!忘れるなんて絶対できません!だって…こんなにもあなたの手は暖かくて気持ちが良いのですから」

私は男の手を取った。男は驚いて目を丸くさせた。


「あっ、ご、ごめんなさい!」

こんな大胆な行為をしたのも、男の人と触れ合うのも初めてかもしれない。

「…それよりも名前を教えてもらえないか?」

「そ、それは…無理です。ごめんなさい」

どうしても名前だけは言えなかった。いくらここが平安ではなくとも…

「なにか理由でもあるのか」

「はい…私の暮らしていた平安時代では女は異性に名前を明かしてはいけないんです。なぜかと言うと、名前を知られることというのは、すなわちその人の所有物になるからです。」

男は黙って私の言葉に耳を傾けてくれた。信じてもらえるだろうか?それとも馬鹿にされるだろうか?


「今で言うなら、名前を聞く=プロポーズということか」

ぷろぽーず?なんだかよくわからないけれど、信じてもらえてよかった。

「あの…」
今度は私が男の人の名前を聞こうと口を開いた。

「…一羽」

「え?」

「一羽と言うのはどうだろうか?」

一羽…うん、凄く良い名前。この人に私の本当の名前を教える日が来るのだろうか?考えても仕方がない、私はこの世界でやっていかなくちゃならないんだから。

そうだよね、母上…




20120515

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