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商店街は人通りが多く活気に満ちていた。私は秀麗様とはぐれないように服の裾をつかみつつ歩いていた。最初は少し恥ずかしくもあったけれど、私達を見る人達の目が優しくだんだんと恥ずかしいと言う気持ちは時間とともに無くなっていった。

「今日はハンバーグにでもしましょうか」
「ハンバーグですか!?」

ハンバーグ! 確かお昼のテレビ番組で特集を組んでいた食べ物だったはず。最近読んだ絵本では子どもがそのハンバーグとやらに絵を描いていた。

「一羽ちゃん、食べたかったんでしょ?」

「えっ! あ、い、いえ……そんなことは……」

図星だった。どうして分かったのだろうか? 私の顔に出ていたのだろうか。

今晩のおかずを買い、商店街を後にした。肉屋のおじさんにはおまけとしてコロッケを一枚もらった。それを二人で食べようと近くの公園に寄った。
公園には珍しく人がまばらで、私達はベンチに座り一枚のコロッケを半分にして食べた。


「うん、美味しい。やっぱりあそこのコロッケが一番ね」

熱々のコロッケを公園で食べるなんて新鮮だった。コロッケという食べ物は皇毅様と一緒に過ごしていたときによく買って来てくれたが、今のように熱々ではなく冷たかった。


――皇毅様は今頃何をしているのだろう……

まだ一週間も経っていないのにもう一か月経ったかのような気持ちになる。寂しい。長い時間ずっと一緒に居たわけではないのに、こんな気持ちになるなんて。


――私は皇毅様の所へ帰りたい……の?

そんなこと言えない。私はただの居候。家族だと言われて舞いあがってしまったけれど、秀麗様からみても私は居候なんだ。この時代に私の居場所はない。

「一羽ちゃん、ぶらんこでどっちが高くこげるか勝負してみましょう」

「ぶらんこに乗ってもいいんですか!?」

公園に来るたび周囲の目を気にして乗れなかったぶらんこ。秀麗様となら周囲の目も痛くないし、今の時間帯なら子どももいない。

私はゆっくりとぶらんこの椅子に座る。秀麗様が言うには足で地面を蹴ると動くらしい。ゴクリと息をのんだ。よし! と覚悟を決めて地面を蹴った。

「凄い、凄いです!」

「手は絶対にはなしちゃダメだからね」

はい! と大きく頷きぶらんこを楽しむ。あれ? 競争だったんじゃなかったけ……?
秀麗様はベンチに座り私を見ている。まるで保護者だ。

ぶらんこはまるで空を飛んでいるみたいで、心地が良い。空が飛べたらどれだけいいか……


「……え?」

「一羽ちゃんっ!」

バランスを崩し、ぶらんこから放り出される。私の体は宙に浮き、時間がゆっくりと経過していくような感覚に陥った。


「……っと」

「え?」

私の体は固い地面にはいなかった。

「天使が降りて来たのかと思ったよ」
「あ、の……」

顔を上げると美しい顔をした男性がいた。私の体はこの男性に抱きかかえられている。

「楸瑛様っ!一羽ちゃんっ大丈夫!?」

「一羽って言うんだ。私の名前は藍楸瑛、よろしくね」

楸瑛様、なんてお美しい人なんだろうか。きっと私がいた時代なら取り合いだっただろう。でも、この時代でも凄いんだろうな。

「楸瑛様、ありがとうございます。わ、私……」
「お嬢様、一羽さん、一体何があったのですか」

帰りが遅いので心配して来てくれたのだろう。
静蘭様は私と楸瑛様を見て驚いていた。それと同時に何だか息苦しい空間になった。


「さあ、早く一羽さんを放してあげてください」
「ああ、ごめんごめん。あんまりにも一羽ちゃんが可愛くてつい」

私はゆっくり地面に降ろされた。まるで壊れ物を扱うかのように優しい手つきだった。

「さあ、帰りますよ。一羽さん行きますよ」

「え? あ、はいっ!」

私は楸瑛様にもう一度お礼を言いたかったが、静蘭様に手を取られ半ば無理やり歩かされた。後を振り向くと彼は手を振っていた。私も思わず手を振った。

秀麗様はまだ少し話すことがあるとその場に残った。


「あの男にむやみに近づかない方が身のためです」
「楸瑛様ですか?」

あんなにいい人なのにどうしてだろう。静蘭様は理由は言わず、ただ淡々と歩いていく。
二人の間に会話は無い。けれど、それは嫌じゃなかった。

「……あなたに悪い虫がついたらお嬢様が怒られますから」

「え?」

静蘭様の声は小さく、上手く聞き取りづらかった。だからもう一回言ってくださいと言おうとも思った。でも、止めた。きっと、言っても教えてくれないだろうから。

秀麗様が私達に合流したのはそれから少し後のことだった。



20140513



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