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その日皇毅は少し遅れて出社した。荒い息を落ち着かせるように、座りながら目を閉じている。
それを睨むように見ているのは同じ部署で働く紅秀麗だった。
その隣に座っている榛蘇芳はその様子をハラハラしながら見ていた。

「タンタン、私行くわよ」

タンタンと言うのは榛蘇芳のあだ名で、秀麗が名付けた。

「葵部長不機嫌そうだけど・・・本気なわけ?」
タンタンはめんどくさそうな顔をして秀麗と一緒に皇毅の様子を 伺った。

「当たり前でしょう?なんのために仕事もしないで部長が来るのを待ってたって言うの」

「じゃ、俺はここで見てるから」

秀麗はよしっ!と気合いを入れ、皇毅のもとに向かった。皇毅はその様子を不機嫌そうに眺めていた。

「葵部長!あの娘のことでお話があります。」

「なんだ、紅秀麗。朝っぱらから何のようだ。」
秀麗は皇毅の不機嫌オーラには動じず、ただ皇毅を見ている。

「・・・大事な話なんだ ろうな?」

皇毅はふうと諦めたようで、他の人には聞こえないように小声で話した。
よほどあの娘が大事なんだと気づいた秀麗も声をひそめた。

「来週から部長が出張だと聞いたので、あの娘はどうするのかな〜と思いまして」

「まさかとは思うが・・・自分が引き取りたいと言い出すんじゃないだろうな?」

「はい、そのまさかです。」

皇毅はうむと悩んでいるようだった。
だが、皇毅にも考えるところはあるようで 、即座に却下はしなかった。

「分かった、だがその前におまえに話さないといけないことがある。」

「話さないといけないことですか?」

そうだと皇毅はうなずいた。

「ああ、とても大事なことだ。」

だから・・・と皇毅は目を外に背け秀麗の答えを待った。

「誰にも言いません。」

「当たり前だ」

皇毅は秀麗を見据えた。

「絶対に約束できると言うのなら仕事が終わり次第私の家に来い。これで話は終わ りだ」

はいと秀麗は無言でその場から離れ、仕事を始めた。


「あいつの為にも受け入れた方がいいのかもしれんな・・・」

皇毅はそう呟くと何事もなかったかのように仕事に戻った。


20121019


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