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「ここはいったい…」

一羽はポツリ呟いた。その呟きは雑踏にかき消された。
彼女の周りにはたくさんの人と車が行き交う交差点。そして煌めくネオン。

彼女は疲れたのか近くにあったベンチに座った。どこをどう歩いてきたか分からない一羽は、途方にくれていた。そして好奇心に負け勝手に出てきた自分を激しく責めた。

「帰れない…」

上を見上げれば大きな建物ばかりで星も見えない。昔は木や竹しかなかったのに、こんなにも変わってしまうものなのかと、さびしそうに見えない星を見た。

「皇毅様怒ってるよね…」
約束を破って出てきてしまった。それなのに、私はまた皇毅様に会いたいと思っている。この時代に皇毅様しか頼れる人はいない。それに、私が居ることで皇毅様に迷惑がかかっているに違いない。


「私はやっぱり死ぬのかな…」

あの時、死ぬはずだったのに無理やり生き延びた。いや、奇跡が起きなければ私はここにはいない。暗い井戸の中で死ぬだけだった。
それなのに、私はここにいる。

夢でも幻でもなく私は存在している。現に、私はこの花にも草にも触れている。

「一羽はここにいるだろう」

「皇毅、様…?」

差しのべられた手はまぎれもなく待ちわびていた人。
でも、私はその顔をまっすぐ見ることができない。

「元の名前は知らないが、一羽と言う女はお前じゃなかったのか」

皇毅様は私を引き上げ、私に目線を合わせた。
皇毅様の瞳には確かに私が写っている。

「帰るぞ」

「でも、私が居ると迷惑じゃ…」

「迷惑だと思ったら即追い出すさ。」

皇毅様はその後は無言だった。けれど、あの差しのべられた手のぬくもりだけは、私はきっと忘れない。



20120806







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