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カタカタとパソコンを打つ音が聞こえなくなった。
「昼か」
時計の針は12を指していた、皇毅は周りを見渡すと自分以外いないことに気づいた。
皇毅は静かにパソコンを閉じ、鞄からコンビニ袋をおもむろに取り出し、机の上に広げた。
「皇毅は今日もコンビニ弁当か、本当皇毅って女の影がないよねー」
皇毅の後ろからひょっこりと出てきたのは陵晏樹だった。晏樹はコンビニの袋の中を見て「モテルのに」と呟いた。
「聞こえてる」
皇毅は荒っぽくお弁当のフィルムを取り、ご飯を一口食べた。
「なーんだ、今日はからあげ弁当じゃないのか。がっかりだなー」
「嘘つけ。毎朝ファンからお弁当もらっているくせに」
「冷たいなー皇毅は」
晏樹は大きな袋からいろいろなお弁当箱を取り出し、皇毅の机に並べた。
そのお弁当箱の中身を見た皇毅はため息をついた。
「女の気持ちが理解できん」
「じゃあ結婚でもしたら?」
そういうと皇毅はすかさず「馬鹿か」と反論した。
晏樹は手作りのお弁当を美味しそうに食べ始め、からあげを皇毅にお昼であるシャケ弁当に入れた。
「お す そ わ け」
「まあ、いつもの流れだな」
そうして皇毅も一口食べ、一方的に晏樹が喋り、皇毅は黙って聞く。
いつもはそれでお昼が終わるはずだったのだが…
「そういえば明日ってお祭り…って、皇毅には関係ないか」
「ああ、毎年やっている花火大会のことか?」
皇毅は顔を上げ、晏樹を見た。晏樹は驚き、飲んでいた桃のジュースを吹き出しそうになった。
「珍しいね、皇毅が興味を示すなんて」
「たまたまだ」
フン、と皇毅は缶コーヒーを飲む。晏樹はその様子を面白そうに見ていた。
「昼も終わりだな、帰れ晏樹」
「はいはい、分かったよ。じゃあ、君にこれあげる」
晏樹は胸ポケットから小さく折りたたまれた紙を皇毅に渡した。皇毅は顔をしかめたがとりあえずその紙をもらっておくことにした。
そして晏樹がいなくなった後、そっと紙を開いた。
「花火大会か…」
それは花火大会のチラシだった。皇毅はそれを大事そうに自分の鞄にしまった。
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