お弁当はほとんど旺季様に食べられてしまい、私は旺季様のお弁当を食べた。

「そういえば結衣との生活には慣れたか?」
旺季様は箸を置き、私に話しかけた。

「慣れたと言われましても…まだ結衣が来てから一日足らず。慣れる、慣れないの話ではありません。」
そして、すべてはこれからだと旺季様に言った。
どのみち結衣が大学生か社会人になったら私の家から出ていってもらうのだから。
そう言う約束で私は結衣を受け入れた。
もしかしたら、旺季様は結衣が大学生になった時、彼女を引き取るのかもしれない。旺季様は日頃から早く社長の椅子から遠ざかりたいと、息をするように呟いていた。

そうなると、次期社長は誰だろうか?

私は社長と言う柄でもないし…やはりお孫さんのリオウか…?いや、若すぎるか。

「皇毅よ、次の日曜日に結衣と一緒に携帯を選んで買ってくるといい。それと…この中のお金は好きに使うといい。結衣の金だ。」


渡されたのは銀行のカードと通帳と暗証番号が書かれた白い小さな紙きれ。
「旺季様、結衣にここまでする必要があるのですか?」

確認のために通帳を見た。記載されていた残高は家を一軒買えるほどの額が入っていた。

「……結衣は私の大事な親友の娘、それだけではダメか?」

ジッと旺季様の目を見た。
私にはそれだけが理由とは思えなかった。

「まあ、罪滅ぼしだ…こんなので償えるとは思わんがな。」

旺季様は私から視線を外し、窓の外に視線を移した。
きっと何かがある。だが、そのことについて私は聞かなかった。
聞いてもきっと答えてはもらえないのだから。
「それよりも旺季様、なぜ携帯なんですか…今時の女子高生はみんな持っているのでは?」

「残念だが、結衣は持っていない。だから買いに行かせるのではないか」

「私は仕事がありますので」

「心配するな、もう休暇は出してある。せっかくだ、街案内でもしてやれ」

そうしてお昼は終わり、もやもやを抱え込みながら仕事場に戻った。 戻ると、女性社員は私の顔を見るなりクスクス笑い出した。
たぶん、晏樹がいらんことを話したのだらう。めんどくさいので、何もなかったかのように振る舞う。どのみち仕事が始まれば、そんな小さな事を気にする暇もなくなるくらい忙しくなるのだから。

end
20111217

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