両親は三年前に他界した。交通事故だった。それは私が中学の時のころの話だ。
中学を卒業するまでは祖母の住む田舎で過ごした。
しかし、住んでいる近くには高校がなく、せっかくだからと祖母に押され上京した。それからしばらくして祖母は入院をしてしまった。
東京に住んでいる親戚をたらい回しにされたのは言うまでもない。 こんな不況の中、誰が私を引き取ってくれると言うのだろうか?

「ならば私が引き取ろう」
重低音の声が響いた。
親戚は皆、顔を見合わせている。
その前にこの人は一体誰なのだろうか?週に一回開かれているこの親族会議。私は毎回出ている。
それなのに、私はあの人を見たことがない。

「あの…私バイトしながら学校に通います。」

私は小さく手を挙げた。誰も居なかったら、もう自立しかないと考えたからだ。アルバイトを掛け持ちなら家賃を払えて、生活には困らないだろう。


―――たぶん


 
「私が引き取る。いいな」

え?いや、あの話聞いてました?私…自立するって意味で言ったのに。
反論しようとしたら、親族達が勝手にその人と話始めた。
なんだかよく分からないが、ボーッとその様子を見ていた。

それからしばらくすると、話が纏まったようでその男性が私の方に来た。
遠目でも分かる、このオーラ…人を威圧させるようなそんな感じだ。

「はじめまして、その言葉で合っているのかは分からないが…私の名前は旺季。お前の父親の友人だ。」

「父の友人だったんですか」
父はいつまで経っても子供心を持っている人だった。だから、この人が父の友人だってことに驚いている。

「そうだ。学生時代は切磋琢磨して人間を磨いた。」
旺季さんは過去を懐かしんでいるようだった。

「そうなんですか…」

それから数時間二人で話し合った。はっきり言えば、旺季さんがずっと語っていたのだけれど。でも、なんだか話を聞いていくうちに私も懐かしい気持ちになった。
旺季さんは私が七五三の時の写真を見せてくれた。こうして思い出してみると、確かに私の記憶の片隅にこの人がいたような気がする。

「明日荷物を纏めてこの住所まで来てもらいたい。」
迎えに来てくれるんじゃないの?と思ったが、それが顔に出てしまったようで、旺季さんは苦笑いをした。

「仕事が忙しくてな…まあ、大丈夫だろう。」


メモにはよく知った住所が書いてあった。
だって、そこは有名な高級住宅街だったから。いいのだろうか、本当に?旺季さんはもう帰ってしまったし、行ってみるしかないなと思った。


20111104

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