タクシーで10分…いや、20分ほどで着いたのは駅前。 家の前にタクシーが居たことにびっくりしたが、葵さんは何食わぬ顔で乗った。まさか、タクシーだなんて…これまでタクシーに乗ったことがあまりない。指で数えられるほどしかないだろう。

特に会話もなく、ほぼ無言で着いた。今日は携帯を買うらしい。

「で、どうする」

「どうするって…どうする?」

ちらりと葵さんを見上げると不機嫌な顔をしていた。
「普通、欲しい携帯の機種とかあるんじゃないのか?」

はて…欲しい携帯の機種…携帯の機種…
一体どんな携帯があるのか皆目見当がつかない。家でも特に天気予報ぐらいしかテレビは見ないので、どんな携帯があるのかまったく分からない。

「じゃあ葵さんが使ってる携帯と同じやつでお願いします。」
そう言うと、ビックリされた。
「……ならEiyoでいいな」

Eiyoと言うのは携帯会社の名前だろう。確か香鈴ちゃんもEiyoだったはずだ。

「じゃあ、お店に行きましょうか」

「そうだな」

葵さんは無言で私の前を歩いた。何だかつまらないと思いつつも、携帯と言うのがどんなものなのか興味が沸いてきた。
授業中に皆がよくやっている、“めーる”だとか“あぷり”、それに今では携帯ではなく“すまーとふぉん”と言うのが流行っていて、とても便利らしい。

でも、私には使いこなせる気がしない。 入ったのは携帯ショップ。店にはたくさんの機種が並んでいる。特にたくさん並んでいるのは、数字キーがない、すまーとふぉん。

「お前にスマートフォンが使いこなせるわけないな。これにしとけ」

そう言って、葵さんは私に渡したのは携帯。しかも、かなり文字が大きくキーも大きくて押しやすい。あれ?これってもしかしなくても…

「女子高生が簡単ケータイ…」

なんだかガックリきた。そこまで馬鹿にしなくたっていいじゃないか。
「なら、これで文字打ってみろ」
葵さんに渡されたスマートフォン。略してスマホ 私は一生懸命文字を打つが、なかなか思うように動いてくれない…機械が

私のせいじゃない。機械が動いてくれないのが悪い。 後、そんなに眉間にシワを寄せなくてもいいんじゃないかなと思う。

「分かった、分かった。お前にはスマホは無理だ。すみません、これください」

「ちょっ!待ってよ、それ簡単ケータ…」

ギロリと睨まれ、私は渋々簡単ケータイを買う。店員さんは私達の会話を聞いて苦笑いをしていた。

そりゃそうだよね…女子高生が簡単ケータイなんて…ねぇ…
携帯ショップを出た後、タクシーをつかまえようとタクシー乗り場に立っていた。だが、タクシーは一台も止まっていなかった為、葵さんはイライラし始めた。
そんなことなら、やっぱり車で来たらよかったのにと思わずにいられない。

前日、車で行こうと私は言ったのだが、即却下された。

理由はこうだ。

 私の愛車を汚したくない

ただ、それだけの理由で却下された。あんまりな話だと誰もが思うだろう。

「待つのが嫌なら歩きましょう!」

「はあ?ふざけるな。ここから家までどれくらいあると…オイ、引っ張るな!」

私は葵さんの腕を引っ張り自宅方向へと向かう。葵さんは嫌々ながら、私の手を振りほどこうとはしなかった。

「ウォーキングは体にいいですからね!さ、たくさん歩いて健康になりましょう!」

葵さんはため息をつきながら、私の一歩後ろを歩く。
なんだか、距離がグンと近づいた気がした。こうしてみると、兄妹みたいだなぁなんて思ったけれど、口には絶対に出したくない。

それから30分歩いて家に着いた。次の日、葵さんは筋肉痛で苦しみ、私は大目玉を喰らった。








20120320

本当はbuにしようかと思った。 そう、三ヶ月前までは…

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