ご!
店長の話から解放され、バイトの先輩も上がった。今日は私一人で閉店まで。
店長もバックにいるけれど、出てはこないだろう。
それより…今日もあの人は来るのだろうか?時計を見るともうすぐ9時、閉店の時間だった。
こんな時間じゃさすがに来ないなとショーケースを拭きはじめた。
「あれ…?」
外から中を覗いているのはもしかして
「!!」
目が合い、反らしてしまった。はーびっくりした。まだ心臓がバクバクしている。
まさか目が合うなんて思わなかった。
「いつものはないんだな」
店内に入ってきてボソッと彼は呟いた。ガラスケースにいつものプリンがないことが分かると、がっくりと肩を落としていた。
「あの…モンブランなんてどうでしょう?」
男の人がよくモンブランを買っていくのを思い出し、思い切って彼に薦めた。
「このモンブランは私のおすすめなんです。甘さも控えめでお客様のお口にも合うかと…」
おすすめと言うわりに売れ残っている。けれど、私はこのモンブランが好き。
甘さ控えめのクリームと大きな栗…
食べた時美味しくて2つ食べてしまったほどだ。
「なら、それをもらおうか」
「はい!ありがとうございます。」
モンブランを取り、箱に入れる。そっと、目線を傾ければジッとガラスケースを見ている彼が目に映る。
今日もかっこいい…
はっ!いけない、見惚れてる場合じゃない、今は仕事中なのだから
時計を見たら、閉店五分前。
「これ、オマケです。」
箱と一緒に置いたのはマドレーヌ
男は目線を私に合わせた。しかも不思議そうに
「いつものお礼です。」
そう言うと、男は少し目を泳がした。一体どうしたのだろうか?
「あ、あの…どうかしましたか?」
「ああ…いや、何でもない。ありがたく貰っていこう。」
男はゴホンと咳払いをし、財布からお金をだした。
そうして彼は入ってきた時よりも浮き足立っているように見えた。
(あの人、本当はマドレーヌが好きなのかな?)
彼は去って行ったのに、ドアから目が離せなかった。
「杏里ちゃん、閉店よ。あらどうしたの?ボーッとして…分かったわ!恋ね杏里ちゃんは恋をしてるんだわ」
「び、びっくりしたー」
ポンポンと肩を叩かれ驚いた。どうやらボーッとしていたようだ。
気がついたら、なぜか店長が私を見て笑っていた。
何故だろうか?
理由は分からないが、とりあえずドアを閉めに行った。
← →
TOP