なな
「生徒たちは皆、熱心に授業を聞いていたようで、私は嬉しいよ」
「いえ、私はただ私なりに講義をしただけですから。」
「本当に君はオンとオフの使い分けが上手いよ。」
恐縮ですと頭を下げた。もともとこの仕事は私の仕事ではなかったはずなのだが、上から指名が来たのだから仕方なく引き受けただけだ。
まさか彼女に会うなんて思わなかったが…
「私としてはまた外部講師としてあなたに来てもらいたいのだが…」
「はあ…」
生徒は熱心に聞いてくれたし、やり甲斐がない仕事ではない。通常業務に支障が出なさそうなら教鞭を執ってもいいかもしれない。
出された紅茶は温くなっていた。
「私一人では決められませんので、上に報告してからまた改めてお伺いします。では、私はこれで。」
「良い返事を期待しているよ。」
最後に肩を叩かれ、ああこれは決定だなと思った。
まあ…彼女にも会えるし、損なことはないだろう。
大学内を歩いていると目につくのは仲良さそうに歩く男女。
若いな…と呟きそうになった。
「まだ名前を聞いていないな…」
彼女に名刺は渡したが、肝心な彼女の名前を聞きそびれていた。
そうだ、今日はこの足で店に行ってみよう。もしかしたら、彼女に…
いやいや、私はプリンを買いに行くんだ。
目的は彼女じゃない。
「とりあえず行くか」
ブラブラと大学内を歩いていてもしかたないので、さっさと出ることにした。
そしてその足でケーキ屋に向かった。
end
20111031
←
TOP