「あー!!!」
無い、無い!なーい!
周りを見渡すも探し物は見つからない。大切なものだったのに
「無くした…」
どうして今日あの簪をしてこようと思ったのだろうか?そんなこと思わなければしてこなかったのに!
「凄く大事な物だったのに…」
カッと目頭が熱くなる。
あれは父から貰った唯一の形見の品。
幼い頃、ようやく力が安定してきた時、頑張った褒美としてもらった鈴蘭の簪。
「父様ごめんね…」
「こんな所で何をしている?」
「殺生丸…あ、駄目、こっち見ないでっ!」
私は勢いよく殺生丸から顔を背けた。絶対に今、私の顔を見せるわけにはいかない。
「見るなと言うなら見ないが…それにしても今日はやけに静かだ。」
よ、よかったー殺生丸が話を分かってくれるひとで助かった。こんな顔好きな人には見せられないもんね。
「べ、別に何でもない。ただ今日は…えっと…そう!かごめちゃんの所にでも遊びに行こうと思って。」
これだったら不審に思わないはず。
「お前はこんな真夜中に人の家を訪ねるのか」
「えっ!?真夜中って…嘘…」
簪を探す前まではまだ明るかったのに、いつの間にか周りは真っ暗になっていた。
「探し物か」
「どうしてわかったの!?」
驚いて殺生丸の方を向いたらばっちり目が合った。急いで目を反らしたが、胸がドキドキし始めた。
「ご、ごめんねこんな顔で…」
「こんな顔?いつもと何も変わらんだろ」
そう言ったのは私への気遣いからなのだろうか。
そうだったら嬉しい。
「少し待っていろ」
そう言って殺生丸は闇に消えた。一人残された私はどうしていいか分からず、とりあえずここで待っていることにした。
そうしてしばらく待っていると…
「待たせたな」
「ぬわっ!?」
いきなり後ろから声をかけられビクッと驚いた。
「やる」
髪を触られ、何かを乗せられた。恐る恐る頭に手を乗せてみるとそこには一輪の花が簪代わりに刺してあった。
「あ、ありがとう…」
「大人しいもふもふより、いつものもふもふの方がお前らしい」
それってどういうことなの?とは聞けず、心に閉まっておくことにした。
end
20110709