「これで良かったんだ」
殺生丸から離れた後、私は豹猫族のすみかにしているところを目指しさまよっていた。
「これで、良かったんだ・・・よね」
殺生丸の顔が見たくなくて逃げてしまった。それがどうしても私の心を引っ張る。
さよならもまともに言えない自分が情けない。しかも嘘と言う線を張って・・・
自分で決めたことなのに、自分の心に負けそうになる。
彼が好きすぎて顔を思いだすたびに胸が痛くなる。こんなにも彼のことが好きだったなんて。
でも私は豹猫族の元に行くと決めた。それは戻るということではなく、決着をつけさせるために行く。
私かそれとも蘇芳か
負ければ私は死ぬだろう、それでもいい。もう殺生丸とは会えないのだから。
「もう、この間のようには負けない」
私はずっと殺生丸達と共に過ごしてきた。どんなに可愛く、綺麗に着飾っても何も反応はなかった彼
でも、反応は無くとも毎日のように追っていたら私にも微笑みかけてくれているような・・・そんな日があった。
私の気のせいかもしれないけれど
だから、昔よりもだいぶ弱くなっているってことに気づかなかった。「あなたから来るとは思いもしませんでしたよ、どうぞ」
やっとすみからしきところ見つけ、私は木から降りた。そして後ろには待ち伏せていたように蘇芳が立っていた。
蘇芳には殺気はなく、何か様子がおかしい。
「私が何をしに来たか分かっているんでしょう?」
「ええ、分かっています。帰って来てくれたのでしょう?みんなも喜んでいますよ。」
蘇芳の後を着いていくとそこには懐かしい風景が広がっていた。
意外だった。まだこんな暮らしをしていたなんて。
もう来ないと思っていた東国、今ここに私はいる。
「もふもふ様、おかえりなさいませ!」
「もふもふ様ー」
蘇芳が口笛を吹くと一斉に戸から顔が出た。
私は、こんなことを望んでいなかったはずなのに・・・
「これは、どういう・・・」
「見て分かりませんか?私たちはあなたにお父上の後を継いでほしいのです。」
「今更、何を・・・」
後ずさりをするとドンと何かにぶつかった。振り向くとそこには大男が私を冷たい目で見下ろしていた。
「あなたは蘇芳の父親」
「やっと帰ってきましたか、さあどうぞこちらへ・・・逃げ場なぞありません」
蘇芳の父は私に優しく話しかけてくれたが、最後の言葉を聞いてぞっとした。そして私の手をつかみ縄で縛り目も隠され、誰かにかつぎ上げられ、どこかにつれて行かれた。一瞬すぎて反撃も何もできなかった。
足音を立てないようにしているのかどこを歩いているのかまったく分からない。
何か布団のようなものに降ろされ、目隠しを取られた。私の目の前には蘇芳が居た。しかも、悲しそうな目で私を見る。
「私に何をする気なの!」
「明日になればわかりますよ。明日になれば、ね」
そう言って蘇芳は錠をかけ私を閉じこめた。
両手を縛っている縄は蘇芳が緩くしたのかなんとかとれそうだった。それにしても一体なにを考えているのか、検討もつかなかった。
「ここから逃げ出す方法を考えないと」
たぶん、ここは蘇芳父の屋敷のどこか
部屋の中には窓はなく、逃げ出せない。壁を壊そうにも音を立てたら気づくだろう。耳はいいのだからすこしの異変でも感知されてしまう。
「明日、か・・・」
とりあえず明日を待つしかなかった。
20130305