07
なんだろう・・・結果的に丸く収まったから良かったものの、冷静に考えて
転校4日目でハプニングが起こり過ぎだと思う・・・。
放課後、練習試合の準備に行くために仁花ちゃんと落ち合わせたとき、
真っ先に、
「6限目、4組から叫び声?みたいのが聞こえて何だろうねって話になったんだけど、何があったの?」
と聞かれてしまい、初日に月島と喧嘩した所からしぶしぶ事実を口にした。
「それで昨日、月島くんにつっかかってたんだね。」
「うん・・・まぁ・・・でも今日はお礼言ったら返事してくれた。」
「い、一歩前進?」
「ま、まぁそうだね!別に月島と仲良くなりたい訳じゃないけど、
見学中な訳だし、教室で気まずいよりは全然いいよね!」
「そうだよ!その調子で今日も頑張ろうね!」
「うん!頑張る!」
と、いい感じの意気込みで扇西高校との練習試合の準備が始まった。
イスを並べる所からはじめて、ネットやボールの用意を手伝って、準備が終わったら整列もして、
現役だったころからそんなに時間は経ってないはずなのに、とても懐かしい気持ちになった。
その短い期間、バレーに関して1%の希望もなく、完全に諦めてたからかもしれない。
澤村主将に、手際がいいねと言われて少し嬉しかった。
そんな感じで頬がゆるんでたんだと思う。
おまけに周りを良くみていなくて、
「何にやついてんの、気持ち悪い。谷地さんみたいな反応とかない訳?」
という月島の嫌みで我にかえると、視界がたくましい上半身で埋め尽くされた。
「!!?」
反論する間もなく手で顔面を隠して後ろを向くと、「ごめん・・・慣れてね・・・。」と清水先輩に諭された。
とりあえず皆が着替え終わった頃を見計らい前を向き直して、試合前の選手達を見届ける。
一応試合前だというのに、雰囲気がいつもと変わらない。
男子特有のノリもあると思うけど皆他愛のない雑談をしていて、かと思えば主将の掛け声一つでものすごい切り替え。
それが私のいたバレー部とは全然違くて、こんな風だったら良かったのにと心底羨ましく思った。
試合中は点数係で、他にやることが無かった。
男子と女子の違いもあるし、セッター以外のポジションのことも本格的に知らないこともあったけど、
見ててもっとこうすればいいのにって言うのは、実際にバレーをやっていなかった人よりは詳しく分析できると思うから、それを記録するためノートを取っていた。
「すごいね、それ。」
「あ、えっと・・・半分好きでやってるんですけど、役に立てばいいなと思って。ですぎた真似かもしれませんが。」
「ううん、絶対役に立つと思うよ。私から主将に渡そうか?」
「お、お願いします、ありがとうございます。」
試合がもうすぐ終わる頃になると、清水先輩が話しかけてくれた。
自分から澤村主将に渡しにくいなと思っていたのでありがたかったし、嬉しかった。
「すごいね!すごかった!
私見てるだけなのにこう・・・こう・・・!」
「ぐわあああってキた?!」
「!!キた!」
「じゃあマネージャーやって!」
「?!」
扇西の人たちも帰り片付けも一通り終わって一息ついた所で聞こえてきた会話。
仁花ちゃんも日向くんもコミュ力あるなぁ・・・。
うーん、ここの雰囲気は心地いいけど、慣れてなくてイマイチなじめてない・・・。
それを遠くから羨ましげに眺める。
「朝日奈さん。」
「は、はい?!」
「さっきのノート、貸してもらってもいい?」
「あ、はい・・・!こんなもので、よければ。」
私は鞄から、さきほどの試合でメモを取ったノートを差し出した。
まだ表紙になにも書いてない、藍色のノート。
「ありがとう、見せてくるね。」
そう言って清水先輩は雑談している皆の方へ向かっていった。
澤村主将に話しかけてノートの説明をしてくれているようだ。
そして清水先輩からノートを受け取った澤村主将が最初のページを見ている。
その後、うしろのページをペラペラめくったと思ったら驚いた顔をして、にぎやかな雑談を続けている皆を呼びよせた。
なに何と言ってあつまる皆を遠目に見ながらどうすれば良いか分からずつったっていると、清水先輩が手招きして呼んでくれた。
「これ、元バレー部だった朝日奈さんが今の試合見てていて気づいたことを書いてくれたそうなんだが、すごいんだ。」
「うわっほんと、状況と改善方法がすごい詳しく書いてある。」
「すげー・・・専門用語バリバリじゃん。」
「あっ、ここ、これ!俺もこうした方がもっと上手くやれたって思ったんだよ!」
「ちょ、ちょっと俺にも見せてください!」
群がりすぎて入るスキが無くなってしまった・・・。
仁花ちゃんまで一緒になって見ているし・・・。
段々恥ずかしくなってきてうつむいてしまうと隣にいた清水先輩が背中を軽く押して笑いかけてくれた。
本当に、こういうのに慣れていなかったので涙がでそうになったのをぐっとこらえた。
「おい影山返せ!」
「影山するいぞ!!」
ちょっとすると、何やらノートを見ていた人の中で騒動が起こっていた。
何やら、黒髪の天才セッター、影山くんがノートを独り占めしだしたらしい。
個人的に、影山くんほどのセッターなら私が走り書きした分析メモなんて目もくれないかと思っていたからちょっと嬉しい。
日向くんや先輩に追いかけられながらも、それをかわして殆どゼロ距離でノートと向かい合う影山くんを見ていたら、
いきなりバッと顔をあげた彼と目が合った。
「?!」
「あの!!」
「えっ、はい!!」
「朝日奈さん、元バレー部だったって・・・。ポジション、セッターですか?」
「そ、そうです、けど、あくまで女子視点だから、何か違ってることあったらごめんなさい。」
「いや、すごいっす、参考になります。他のポジションにくらべてセッターのことが詳しく書いてあるからセッターかと思ったけど、やっぱり。」
「あ、あはは・・・よかった。」
「それにきっと、かなりハイレベルなセッターだった。違いますか?」
「・・・まぁ・・・それなり・・・。」
「!!もし!正式に!マネージャーやることになったら!話、聞かせてください!」
「?!?!」
イキナリの気迫と発言に驚いてあからさまに動揺してしまう。
先ほどまで影山くんを追い回していた先輩が「ヒューヒュー」と茶化してきてさらに困惑し訳が分からなくなってしまうと、澤村主将が流れを遮ってくれた。
「いやいやほんとに、2人もマネージャー候補がいるなんて嬉しいよ。
来てくれてありがとう、谷地さん、朝日奈さん。」
ーーーーこうして見学2日目が終わった。