06


どうして男バレの見学に来たのか、優しそうな先輩が掛けてくれた言葉に詰まりながらも、
今できる精一杯の笑顔を作って

「もう一度、違う形でバレーに関わるチャンスだったから・・・・・・ですかね。」

そう言っておいた。

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転校4日目。
月島は昨日私が男バレの見学に行ったことに一切触れない。
本当に喋る気がないらしく、私もまた達者な憎まれ口だけ叩かれるのは御免だからあえて触れなかったため、
朝から6限が始まろうとしているこの時間まで一言もかわしていない
6限は初日 以来の数学の授業。
"あんなこと"もあったし、まだ完全にクラスメイトの名前を覚えた訳ではないのであの形式を取っているだけでも嫌な授業だ。
今回もまた解答者が大人しめな子になって次の指名を迷う場面となった。
先生はそれを助けることなく、にやつきながら傍観しているのを見て、あぁ、この先生苦手だな・・・と思った。

そんな矢先、頬杖をついて呆れた顔をしていた私を、先生がチラっと見たので何事かと思えばとんでもないことを言い出した。

「次は蛍ちゃんでいいんじゃないか?なぁ、朝日奈。」

バンッ・・・と、気がついたら机を叩いていた。
反射的につい。
ここまでしてしまったら言うしかないだろ う。
静まり帰った教室に私の声が響き渡る。

「それって無いんじゃないですか?!
 先生は知ったことではないかもしれませんけど、転校生に対する配慮が無さすぎだと思います。
 あとわざと人が嫌がる呼び方もやめてください。そのせいで私と月島なんか・・・あー・・・えっと・・・月島も何か言いなよ!」

月島と喧嘩中って言うのがなんか恥ずかしくて言いとどまり、ついには月島に振ってしまった。
すこしだけ顔をこちらに向けて私を見る月島の表情は、また余計なことを・・・みたいな感じだ。
自分でも余計なことをしてしまったと思う。
どう収集をつけようか、少し焦りながらそれを考えはじめた矢先、月島が口を 開いた。

「朝日奈さんの言う通り、今のは無かったと思います。
 今回だけ聞かなかったことにするんで、授業を進めてください。」

流石月島、口が達者。
上手く流して授業を再開させた。
先生が「あ、あぁ、すまなかった。」と言って未だ黒板の側に立っていた女の子を席に座らせると
次の回答者を選ぶことなく、自分で解きながら説明をして授業を円滑にすすめはじめた。

それを見届けた私は、前に座っている月島の背中をちょんとつつく。

「ありがと。」

ひそめた声で私が言うと、まぁ特に無視されるだろうと思っていたのだが
月島は後ろの私をチラ見しながら「ん。」と、小 さく返事をした。

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