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私が見学をお願いすると、美人の先輩はすごくよろこんでいた。
何日か探しまわって、昨日と今日で2人目らしい。
昨日、月島とあんなことあってもみんな割と普通に接してくれるいい人ばかりだし、もう1人がどんな子が少し考えたけどあまり心配してなかった。


その後、5限6限とHRを無事終えて少し経ち、部活の面々が大体いなくなった頃、先輩は迎えに来てくれた。

「ごめんね、待たせちゃって。」

「いえ、こちらこそ教室まで来ていただいてありがとうございます。」

「これからもう1人の子も迎えにいって、練習を見学してもらおうと思うんだけど大丈夫?」

「だ、大丈夫です。ジャージも持ってますし。」

と答えつつも、いきなりのことに少し緊張してきた。
まさか転校2日目でまたこんな密接にバレーと関わる機会がくるとは思わなかった。
とりあえず雰囲気とか聞いておこうと思って先輩に話しかけようとしたら、少し先の方から明るい髪色をした女の子が小走りでやってきて、
それに気づいた先輩が軽く手を振って答えた。
この子がもう1人のマネ候補で間違いないだろう。
優しそうな子で良かった。
私が少し見ていると、先輩と挨拶を終えたその子は視線に気づいたらしく、一瞬固まった後、目と口を大きく開けて言った。

「せ、先輩!も、もし、もしかして・・・!」

「うん、2人目のマネージャー候補。朝日奈憂さん。転校してきたばかりなんだって。
 朝日奈さん、こちら谷地仁花さん。」

「あっ、どこかのクラスに転校生が来たとは聞いてました!!よ、よろしくね、朝日奈さん。」

「こ、こちらこそ・・・!谷地さん。」

「仁花でいいよ〜。」

「うん、じゃあ仁花ちゃん。私も名前でいいよ!」

「わかった!憂ちゃん!うれしいな〜一緒に見学する子がいると心強いよ。」

「2人とも気が合いそうな感じで良かった。じゃあ行こうか。」

私と仁花ちゃんは清水先輩に案内されて、更衣室でジャージに着替えた後、部員のいるバレ ー部へ向かった。
仁花ちゃんは昨日すでに顔見せだけ済ませているらしいから、まず私の自己紹介から始めるらしい。
「見た目はアレな人がいるけど、みんないい人だから、大丈夫。」
「私も昨日すごい挨拶されちゃったんだよ〜。あと1組と3組の子がね・・・。」
などと2人が様子を教えてくれて、励ましてくれて、私はやっと体育館に入る勇気がでた。

「谷地さん!!」

仁花ちゃんと扉の所でおそるおそる入るタイミングを伺っていると、やたら大きい声が仁花ちゃんを呼んだ。

「午後の英語の小テスト・・・さっき教えて貰ったトコ出て・・・3分の1も点とれた!!」

そう言って声の主は少し遠く から、何やらぐしゃぐしゃになった紙を持ってきた。
私はその姿を見てすぐ扉に隠れた。
あの子、月島のとこに来てた子だ!!
あの時、月島の後ろに座ってた奴が転校生で、喧嘩の相手かよと思われたくなくて、つい隠れてしまった。
仁花ちゃんはその子とテストの件で盛り上げっているし、完全に出るタイミングを逃した・・・。

こうして隠れて焦ること数分、少し興奮がおさまったのか、「あ、そうだ!」と仁花ちゃんがテストの話を遮った。

「今日ね、2人目のマネージャー候補の子が一緒に来てるの。」

「うん、朝日奈さんて言うんだけど、日向くんがいきなり叫んだから隠れちゃったのかも。」

「え? !俺のせい?!ご、ごめん!えーと・・・朝日奈さん!!」

ああ・・・もう観念して出て行くしかない。
でも普通、後ろの席にいた奴の顔なんて覚えてないだろう、そうだろう。
ましてやあの時私は顔を伏せていたんだから。
よし、行こう!!

こうしてさっきの数倍勇気を振り絞って扉から顔を出して私を待っていたのは、更なる罠だった。

「げっ!!!!!!」

「こっちの台詞なんだけど。」

「月島ってバレー部だったの?!」

「悪い?ていうか急に月島呼び?」

「いまさら私が月島君とか呼んでも気持ち悪いでしょ!」

まさか月島がいるな んて・・・そう思ったけど、よく考えたらあのオレンジ頭の子がいた時点で同じ部活であることを疑うべきだった。
だからってここでマネージャーを辞めるとか言うのは絶対にない。
折角のチャンスだし、何よりかっこわるい。

「えーっと・・・2人は知り合い?」

永遠と続いていきそうな私と月島の口論を遮ったのは清水先輩だった。

「頭の悪い転校生なんか知り合いじゃありません。」

「こっちだってこんな性悪男知りません!!」

最終的に無言の睨み合いに収まった私と月島は先輩達に連れられてそれぞれするべきことに収まった。

「清水先輩すいません、つい頭に血がのぼって ・・・。」

「う、うん。それより大丈夫?えっと・・・色々。」

「大丈夫です。ちゃんとマネージャーやります!」

月島への怒りは収まらないけど、すっかり緊張のとれた私はそう宣言した。
仁花ちゃんはさっきのやりとりを見てよけい緊張してしまったらしく、なんか変な行動をとっていたし、シャチとか言ってた。
実に申し訳ない。

こんな感じで始まったマネージャ見学。
悪いけど、正直どこにでもある男子バレー部だと思っていたから少し退屈な時間を予想していた。


だけど、この予想は良い意味で裏切られる。


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