03


【注意】
夢主の過去です。
割と暗いです。





「バレー部のマネージャー、やってみない?」

突然やってきた知らない美人の先輩はそう言った。

「えっ・・・えぇ?!」

「あ、ご、ごめんね、いきなり・・・。実は今、男子バレー部のマネージャーを募集してて・・・。」

「男子・・・バレー部?」

「そう。あの・・・バレー部だったんたよね、見学だけでもどうかな?」

私は先輩が差し出してきた紙を受け取る。
言わずもがな男子バレー部マネージャー募集の要項だった。
私がそれに目を通してるのを先輩が固唾を飲んで見守っている。

「男子バレー部・・・マネージャ ー・・・。」

「ど、どうかな?」

正直、部活のことは考えたくなかった。
転校した理由であるこの腕の怪我が、部活によるものだから。

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私は東京にある女子バレーの強豪校で、レギュラーメンバーだった。
1年にもかかわらず。
元々スカウトで入った高校だったけど、レギュラーに選抜されるのはそんなに大変ではなく、
レギュラーメンバーの見極めがされる入部してすぐの合宿を終えてすぐ、セッターとして1軍に選抜された。
死にものぐるいで努力している他のスカウトで入学した子や、先輩を置いて。

そ の時から部内で私と話をしてくれる人がいなくなった。
同じレギュラーの先輩とは多少話すことがあっても、基本的に部活の時間、私は孤独だった。
最初のうちはそれでもいい、誰よりも強くなってやると思って過ごしたが、
次第にそれがエスカレートし、部活以外の時間にも影響がでるようになると、流石に顧問や担任の先生に相談した。
”すいません、自分だけではどうにもできないので、どうにかしてくださいお願いします。バレーを続けたいんです。”
しっかりとそう伝えた。
これで少しは改善される。そう思った矢先の出来事だった。

「俺と付き合ってください、朝日奈さん。」

よりによって女バレ部員がいる場所でそれは 起こった。
学校内でも人気が高い、女バレと肩を並べる程の強豪であるテニス部部長の先輩に告白された。
何を考えているんだと思った。
この人は私がいじめられていることを知らないのだろうか。
この時の私は、ふざけるなだとか、どうやって切り抜けるかだとかそんなことばかり考えていて、
何やらバレーに一生懸命な所がいいとか、何にも屈しないところが素敵とか、そんなことをずっと言って
何気に私をちゃんと見ていてくれてたその人の言葉に耳を貸すことなく、苛立ちを覚えてひどい返答をしてしまった。

「先輩も同じ強豪の部活所属なんだから分かりますよね。恋愛してる暇があったらバレーの練習をします。
 先輩も部長な んですから、部活を優先すべきだと思います。」

先輩は「そっか・・・・・・ごめんね。」と言っておとなしく去ってくれたから良かったが
問題は後ろで一部始終を見ていた人達だ。
何もなかったかのように帰ろうとした私を、先輩の1人が後ろから突き飛ばした。
私は地面に倒れ込んだが、その時は大きい部活用のカバンが上手くクッションになって怪我は何もなかったものの
問題はその後で、きっと私がフッた先輩のことが好きだったのだろうと思われるその先輩は泣き叫びながら私を罵倒した。

くだらない、くだらない。

ここ最近ずっと頭の中を反芻しているこの言葉がより強くなって、言葉にこそださなかったが
私は強く先輩を睨みつけてしまった。
すると泣き叫ぶ先輩を庇って止めようとしていた先輩の内の1人が「なにその目」と言って未だ地面に座り込んでいる私の目の前に立った。
続いてほかの先輩までもが「前から一度ケジメつけてやろうと思ってたんだよ」「生意気」などのチンピラみたいな言葉を並べながら
私を取り囲んだ。
取り囲むほどの人数がそろえばあとは簡単だった。
部室に連れ込んで鍵を閉め、腕をちょっくらやるだけ。
騒ぎを聞きつけて顧問の先生が駆けつけると、先輩達は周りにあるロッカーを含む物と言う物を散らかして言った。

「先生!ロッカーの後ろに入っちゃったお金取ろうとして色々どかしてたら、ロッカーが倒れ て・・・。」
「それで朝日奈さんが下敷きになっちゃって・・・だよね?!大丈夫、朝日奈さん。」

またバレーがしたかったら合わせろ、語尾にそう付いているいるかのような口ぶりだった。
きっと先輩達もそんなに強くした覚えはないのだろう。
それでも私の両腕はちゃんと壊れていた。
青くなって動かない腕と自分の弱さに絶望した私は、とてつもなく汚い言葉で真実を叫んだ。


こうして私は二度とバレーどころか、どのスポーツも満足にできなくなった。
先輩は退学・停学処分。
親の計らいで私も、母方のおじいちゃんとおばあちゃんのいる宮城の高校に転校することになった。


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だからとても迷っていた。
私が支える側になること。
ずっと支えられる側として前線で活躍していたから思いつきもしなかった。
第一、この高校のバレー部がマネージャーがいる程強いだなんてことも知らなかった。
ふって湧いた小さな希望に、私の胸は高鳴っていた。

またバレーに関わることができる。
でも、またあの時のようなことが起こったら・・・。
マネージャーだから、あの時と同じ理由で誰かに恨まれることは無いのだけど、どうしても意識せずにはいられなくてまだ包帯のとれない右腕の拳を握りしめる。

「・・・・・・・・あの。」

「?」

「ま、まずは見学だけ、させてもらっても・・・いいですか?」


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