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要するに、特に私の普段の生活やリハビリが悪かったわけではなく、純粋に症状が悪化しているとのことだった。
腕もあがるようになったし、そんな風には見えないと訴えたけど、検査結果と合わせて説明を受け、
大人しく現状を受け入れるしかなかった。

完治しないかもということ。
してもかなりの年月を要するということ。
定期的に病院に通うこと。
リハビリをもっとすること。

少し浮かれていた分余計落ち込んでしまって、まったく食欲が湧かず、夕飯を抜き、
朝食に少しパンをかじった程度で次の日も学校に行った。
昼休みも4限が終わり次第すぐ机に突っ伏した。
心配した友達がちょくちょく声を掛けてくれたけど、少し調子が悪いだけといって誤摩化した。

予鈴が鳴ったころに月島が席に戻ってきて、この状態の私にとくに何も触れずに座ったのでほっとしていたら、
少し間をおいて「なにかあったの。」と聞かれた。
最初の印象がお互い最悪だったことと、月島自体自分からあまり喋るようなタイプではないから
月島から話しかけられたときは丁寧に返すようにしようと思っていたし、
昨日バレーをやるか迷っている話をしたこともあって、少し迷ったけどまだ誰にもしていない腕怪我のことを小声で告げた。

「腕、治らないかもって言われた。」

私が体勢を変えないまま言うと、次の時間の準備で机の中の教科書を探していたであろう月島の手が止まるのが分かった。

「昨日、医者に言って言われたの。私ちょっと甘く考えすぎてたみたい。それでちょっと、ショックなだけ。」

言いながら顔をあげると、月島はすでにこちらを向いていて、哀れみでも、蔑みでも、嘲笑でもない、どちらかというと驚愕したような表情をしていた。
だけどそれは一瞬で、すぐにいつものポーカーフェイスに戻ると数秒の間をおいてこう言った。

「・・・まぁでも、転校してくるくらいだから、そんなに真剣にやってなかったんデショ。」

この瞬間、私は座っていた椅子が後ろに倒れるのも気にしないで勢いよく立ち上がった。
少し強がってみせた私が悪い。
分かっていたけど、気づいたけど、これが月島なりの励ましだって、素直じゃないコイツの精一杯だって。
だけど私は昨日から我慢していた胸の奥の何かが弾けてしまって、1人じゃ抱えきれなくて、弱いのが恥ずかしくて、

「何も知らないくせに!!!!」

と叫んで教室を飛び出した。


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