貴志部中編

Take A Fancy



「水無月さん、ちょっといいかな。」

「え゛?」


思わず変な声を出してしまった。
退屈な授業が終わってさあ帰ろーなんて鞄を持った矢先、帰宅部で特に何ができる訳でもない私に、雷門のアイドル神童拓人くんが話かけてきたのだ。
台詞が台詞なだけに何で私に?って言う周りの視線が痛くて動揺する。


「ななな、なんですかね、神童くん。」

ああ、名前を呼ぶことさえなんだか罪悪感だ…。
当の神童くんはまっすぐ私を見つめていて目のやり場に困る。


「間違ってたらすまない、昨日、誰かの財布を拾って渡さなかったか?」

「ん?…ああ!」

確かに財布を拾って届けた。青い長めの髪をした大人しめの男の子だった。
ポケットから財布を落としたのを見て必死に追いかけて渡したのだ。

「渡したけど…何で神童くんがそれを?」

「俺はその財布の持ち主から聞いたんだ。遠目に確認したら同じクラスの水無月に似ていたものだから、合っていて良かった。」

「そ、それはどうも…。」

それが学校のアイドルが私ごときに話かけた理由なのか…多分訳があるだろうと思って神童くんの言葉を待つ。
そういえば私が財布を拾ってあげた男の子と神童くんは知り合いのようだけど、あの青い髪の子を私は知らない。どこかで見たことがある気がするけど…。


「それで、水無月さんに折り入って話があるんだ。」

ほらきた!
ギャラリーの視線が痛すぎる。

「今度、雷門と木戸川清修で練習試合をするんだ。場所は雷門中だから見に来てくれないか?」

「?!」

これはなんの罰ゲームなんですかね!神童くんのこと嫌いじゃないけどむしろ好きだけど憧れだけど恋とかそういうんじゃないし、これは明日からイジメ始まるレベル。

「ちょ、神童くん、ななななんで私?!」

「あ、いや俺じゃなくて…えっと、ここで言うのは気が引けるな…。」


流石の神童くんもやっと周りの状況に気づいたらしい。神童くんが否定してくれれば私の明日も少し安心だ…なーんて胸を撫で下ろした矢先、神童くんが急に私に顔を近づけた。外野から悲鳴が聞こえる。
そしてこう耳打ちした。



「水無月さんに財布を拾って貰ったやつが、水無月さんに一目惚れしたらしい。」


神童くんの顔が離れた時には、周りがどうのよりも、その言葉を反芻することで頭も胸もいっぱいだった。


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20120419
本人がでてこないwww
2に続くー


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