※磯崎視点





ドキッとした。



街中で後ろ姿を見つけて、すぐにあいつだって分かった。
背も伸びたし、髪型もあの頃と少しは変わったかもしれないけど、それでも、なんだろうか…直感で分かった。


(水無月奏だ…!)


水無月とはゴッドエデンで出会った。話という話はしていない。あいつは俺のデータを取る係を任されていただけ。それでもきっと、あの孤島にいた期間で一番近くにいた奴だと思う。

割と短期間でゴッドエデンを出た俺は1年でサッカー部キャプテンという地位も相まって、かなりの好き勝手をしてきた。女だって、何回変えたか分からない。


だけど、どうしても忘れられない奴がいた。分かっているんだ、これは別に恋じゃない。忘れられなかっただけなんだ。


だから、だからきっと、一度話をしたら好きになってしまう。


分かっていたから一瞬話かけるのを躊躇った。この俺が躊躇う、ということをした。仲間がいたら笑われていたに違いない。


結局、俺は何やらたくさんの荷物を持っている水無月に話かけた。


「お前…水無月だろ、水無月奏。」


そんなに年月が経った訳じゃない、俺のことは覚えているだろうという自信があって話かけたのだが、なんと水無月の奴、忘れていやがった。すぐに思い出した様だから許したものの、本気で忘れていたらどうなったか分からない。その場も、俺の心も。

話かけた後、少しお互いのことを話した。ちゃんと話すのはお互い初めてのようなものだから変な感じだった。
もっと話していたかったが、水無月の目がチラチラと荷物の方を見ているのに気がついた。見た所、普通にスーパーでの買い物っぽいし、早く冷蔵庫に入れたいものがあるのかもしれない。それにしても大荷物だ。
この状況で手伝わない男はいないだろう。
それに、水無月の家を知るいい口実だった。


なんともなしに会話をしながら水無月の現在の自宅に着いた訳だが、ゴッドエデンにあんなに長く滞在していた奴にまともな親などいる訳がない。先程の会話で白竜と青銅が出てきた時から嫌な予感はしていたが、実際に家にあがってすぐに核心した。

白竜と青銅もここで暮らしている。

すぐにそのことを突いてやると水無月は凄く動揺した。面白くない。水無月が顔を赤くしたことも、俺がどうやっても白竜や青銅、あのエリートチームの奴らに敵わないことも、色々。


「…帰る。」

とりあえずここで白竜と青銅に出くわすのだけはごめんだ。俺のことを白竜と青銅に言わないよう釘をさして、ふて腐れるように言った。
とりあえず水無月の家を知ることができた。これだけでも収穫だが、この流れならアドレスを聞いても大丈夫だろ、よし、そう思ってアドレス交換を切り出すと難無く成功した。
その際、また困ったことがあったら連絡する様に言っておいた。これも、口実だ。


今度こそ、もう今日はこれ以上を望むまいと帰ろうとした時、水無月がなにかお礼を…みたいなことを言ってきた。
別に今日じゃなくても、みたいなニュアンスだったが、少し悪戯めいたアイデアが俺の頭には浮かんでいて途中から正直水無月の言葉は聞いていなかった。


水無月の言葉が終わると、俺はまるで落ち着いたようなふりをして一言呟いた後素早く水無月に近づいて前髪をかきあげて額にキスをしてやった。

これで水無月も気づいただろうか、ここまでしてしまったんだ、さっき釘をさしたが水無月がもし白竜や青銅に言ってもそれは仕方がないだろう。

俺は照れ隠しなのか強がりなのか嬉しさなのか分からない笑いを残して、今度こそ帰路についた。
玄関を出る直前に視界に写った水無月の顔は真っ赤だった。



いいさ、宣戦布告だ。



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20120519
アンケートとる前に書きはじめてたのでこれだけ…。台詞が少なくなる癖を無くしたいです。

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