「俺とカルロスと、…山岡は知ってるよな。今のスタメンのうち何人かは成宮に誘われて稲実に来てる。」

「あっそれで!」

ひとつ納得した。
野球についてそんなに詳しくなかったから深く考えていなかったけど、関東No1サウスポーと呼ばれる成宮くんはまだしも、2年生があれだけ当たり前のようにスタメンに入っていることを疑問に思っていた。
高校で初めて会ったけど、やっぱりみんな中学生、いやきっと小学生の頃から何かに熱中してきた同じ人たちなのだとハッキリ分かったことが嬉しい。

「すごい人だったんだね、みんな。」

「…まぁ。それで、その誘い断ったやつが1人だけいたわけ。」

「御幸くん?」

「……………。」

「嫌いなんだ?」

あまりにも分かりやすいのでそう問いかけると、白河くんは軽く舌打ちをした。
この時点でなんとなく言いたいことが分かってしまった。
成宮くんが確実に甲子園に行くために集めたメンバーを敵に回す選択をした人。
自分の甲子園への道を自分で狭くすると同時に、成宮くんの最強チームの甲子園への確実性も下げた人。
どのポジションの人か知らないけど、成宮くんが今でもたまに話に出すくらいに、白河くんがここまで嫌うくらいにはすごいプレーヤーなのだろう。
私たちがこんなにも恐れて仕方ないことを、恐れない人。

「これだけのメンバーが集まったチームなら余計に戦ってみたいって言い放ったやつ。」

「……いいね。その人、どこのポジションなの?」

「捕手。」

「あぁ〜。」

成宮くんが言うところの雅さん、強豪校稲城実業高校の野球部キャプテンを務める原田先輩の話を聞いたりしていたから、捕手というポジションがどれだけチームにとって重要なポジションなのか、なんとなく雰囲気は掴んでいた。

ここでなんとなく思い出した。
私が見に行った甲子園をかけた決勝戦、相手のユニフォームの青が特徴的なチームの捕手がその人ではなかったか?
だとしたら本当にすごい人だ。

「色々あって、アイツのせいで俺は最初の頃、本当に稲実に来てよかったのか良く考えてた。でも
1年前の甲子園の暴投から自分を追い込んで立ち直った成宮を見て、あのエースについて行こうって決めた。」

「…………。」

今話してくれているのはきっと私の秘密にいつでも気が付いた、白河くんの秘密だ。
正直言うと、いつでも私が隠していることを暴いてくるところは、嬉しかったけど、怖くもあった。
でもそれって、同じ弱さがあったってことだからなんだ。
理解した瞬間、怖さの方はふっとんでしまった。
代わりに、今まで感じたことのなかった感情が心の底から湧き上がるのを感じた。
私は息をのんで、次の言葉を待った。

「青葉は成宮に似てる。でも青葉は1人だから、俺たちを頼ればいい。」

嬉しくて、目の前の白河くんの胸に飛び込むと、今度は両手を背に回してくれた。
そして少し優しく撫でると、「分かったら急いて帰るぞ、夕飯が食えなくなる。」と言った。
やっぱり夕飯の心配してるんじゃん。



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「色々あって〜」はクリス先輩のこと。

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