32


※書く予定だった話を忘れていたので31話と日付が前後してます。

※32〜34は学園祭の話です。
原作に関係ない部分なので、飛ばしてもらっても大丈夫です。

10月の半ば、ちょうど本戦の一週間前の土日は学園祭だった。
夏休みが終わり長い休暇のボケが抜けてきたころ、クラスで学園祭の担当決めが行われた。
1年生は特に売店など出すことはないので、クラスにあらかじめ割り振られている場所の飾りつけについて、
どの班が何を担当する、程度のものだが、問題は文化委員だった。

これから学園祭まで放課後が忙しくなるので、活動が盛んな部活に所属している人などは入るわけにはいかない委員会なのだけど、
このクラスの文化委員を担当していた子はそうとも知らず、放課後文化委員の仕事をするわけにはいかない部活に所属してしまっていたそうだ。
まぁ初めての高校の学園祭だし、学園祭以外ではやることもない委員なので軽い気持ちで入ってしまっていたのだと思う。
無理もない。

私は元の高校の学園祭が夏開催で1年生の学園祭が2回目だったので、文化委員や体育委員の面倒くささはよく分かっていた。
だから、面倒な委員を引き受ける人を今となって決めなくてはいけなくなり、ちょっと不穏な空気になり始めていた教室で私は挙手をした。

「あの、私やります。」

先生や困っていた学級委員、その他生徒が私の方を向く。
もちろん、前の席の月島も。
月島はハァ?みたいな顔をしてる。

「私体育祭は一切参加できないし、これくらいやらせてもらえればいいかなと思って。」

「ほ、本当?朝日奈さん、助かる〜!」

意外と早く収まった問題に安心した顔になった学級委員に感謝される。
大丈夫です、と笑って答え、話が次の議題に移った後、こちらを向いたまま怪訝な顔をしている月島に話しかけた。

「そういうことだから。マネージャー2人いれば十分だと思うし、月島もお兄さんのところ行くんでしょ?
私も本戦までリハビリに集中する予定だったけど別に毎日病院行くわけでもないし、調度いいと思ったんだけど。」

「・・・放課後部活に顔出してる暇ないんじゃない?」

何を不機嫌になっているか知らなかったけど、月島から出てきた言葉にキョトンとしてしまった。
忘れていたわけじゃないけど、屋上で言ったあの言葉を思いのほか月島が心にとめていてくれていることに感動して。

「何?」

「えっ、いや、そうだね、当日前は部活行けないかもしれないけど、それまではできるだけ顔出すよ。
前の高校は夏開催で学園祭2回目だから分かるけど、そこまで忙しくないはずだよ、文化委員。」

「ふーん、そう。」

そう言って月島は前に向きなおした。

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担当決めの時間が終わり、放課後になった。
その日の部活で大地さんにことの成り行きをはなし、学園祭までの私の予定について許可をもらった。
委員会の集まりは早速次の日にあった。

「今年の開会式の出し物はちょっと頑張ろうと思ってるの!」

文化委員長の先輩は自分で立候補したと聞いただけあって、とてもやる気にあふれた人だった。
なぜか後ろに衣装が用意してある。

「3年生の文化委員は演劇部で集まって、1、2年生には悪いんだけど先に考えたプランで許可をとっているものがあるから、それを実行しようと思ってます!」

なるほど。
勝手ではあるけど悪い話ではない。
渡された資料には「ありのままで」のフレーズで人気を博している某映画を模したステージのプランが書かれていた。
かなり詳細で計画的な内容に、私を含め他の1、2年生も結構乗り気な雰囲気になっている。

「良かった〜。私たちの思い出づくりに巻き込んじゃって申し訳ないけど、みんなにとってもいい思い出になると思う。」

大変になるけど頑張ろう、そう宣言した委員長に拍手がおこった。

「まぁ、それでね、見てもらえれば分かると思うけど、問題が1つあります。
肝心のこの歌を歌う役はCDを流さずに生で歌おうと思ってるから、歌が上手い女の子にやってもらいたいの。
3年生の私たちはあんまり歌が上手くなくって。」

ごめんね、と笑う委員長。
突然の歌の面接が始まるような雰囲気に女子の文化委員がざわめく。

サビの部分を適当に歌えばいいということで、2年生の先輩から7秒ほどのフレーズを順に歌い始める。
4組以降の文化委員は男子だったので私は最後だった。
途中そこそこ歌の上手い先輩がいたし、ほぼ決定だろうと思い最初は緊張していたものの、1年の番になったころにはかなり落ち着いていた。

適当に歌ったはずだった。
歌い終わってふと委員長を見ると、私を指差していた。
私もつられて自分を指差す。

「すごい良い声!通るね!」

「本物とは感じが違うけど、これはこれでいいと思う。」

「衣装的にもサイズあいそうだし。」

3年の先輩達が口々に言う。
私と言えば焦って上手く言葉がでない。

そうこうしているうちに衣装を合わせられ、そのまま持たされて教壇に上がらされると、1年4組の子でいいと思う人〜という多数決が取られる。
拍手が起こると、あれやこれやと話が進み、人選に意見を言える状況ではなくなっていた。


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