次の日。
「気持ち悪いんだけど。」
「え?」
「顔にやけすぎ。」
「ええ〜だって〜〜。」
「・・・誰にも言ってないよね?」
「言ってない言ってない。山口くんとかえらい勘ぐってきたけどちゃんと言ってないよ!」
「ふーん、ならいいけど。誰に見られるか分からないからさっさと行こう。」
そわそわしてる月島がほんとうに面白い。
私が始終にやにやしていたので道中3回くらい気持ち悪いと言われたけど今更それくらい気にならない。
どうやってからかってやろうかと考えていたんだけど、
月島に案内されて到着したお店はすっごいおしゃれで、店内の席に着いたころには私の方がはしゃいでいた。
「す、すごい、こういうとこ初めてきた!」
「ちょっと恥ずかしいから落ち着いてよ。」
「いやだってほら、私こういうところ来たことないから。」
「ああ・・・。」
「月島は事前にチェックしてあるんでしょ?どれがオススメなの?」
この際もう暗い話も月島を煽るのもなしだ!
これから女友達ともこんなことができると思うとたまらなくわくわくする。
メニューをみてどれにしようかどれにしようかとやっていると、
先ほど私が質問したにもかかわらず何も言わずにジーっとこっちを見ている月島に気が付いた。
「・・・?」
「いや、なんか楽しそうで良かったよ。」
「?!」
お、驚いた・・・。
そう言って笑った月島からは何も悪意がなくて、今までに見たことのない顔で笑っていた。
月島がそれなりに女子に人気なのは知っていたし、コイツこの性格さえなければルックスはスペック高いのにと思っていたけど、
心の底からかっこいいと思ったのは初めてだった。
「不覚・・・。」
「何が?」
「な、なんでもない!それよりオススメ聞いてるじゃん!」
「僕はショートケーキにするけど、ここのオススメはザッハトルテとかブラウニーとか、チョコレートを使ったやつみたいだよ。」
「じゃあ、わたしザッハトルテにする!チョコレートケーキの王様ってやつでしょ?」
「へぇ、知ってるじゃん。」
「昔、大会で優勝した時のお祝いで食べた時に教えてもらったの。
それ以外は何も知らないんだけど、すごく美味しかった記憶があるから。」
言いながら思い出したけど、これは相当昔の話だ。
小学生の頃に入っていたバレーチームで、みんなでパーティーを開いたんだった。
それから中学の部活に入って、優勝が当たり前のようになってからはあんまりそういうことはしなくなった。
ケーキなんてめったに食べないし、ザッハトルテを食べるのもきっとあの時以来。
あのころを思い出して、なんだか悲しい言い方になってしまって、
乾いた笑いでごまかした。
「・・・ごめん、暗い話はしたくなかったんだけど。」
「朝日奈がこれからどうするのか興味あるっていったデショ。
僕に言う分には構わない。
ケーキだって、きっと昔と同じくらい美味しいよ。」
・・・本当に今日の月島どうしちゃったんだろう。
ぽかーんとしている私をよそに、月島は店員さんを呼んで注文を済ましていた。
「ありがと・・・っていうか、慣れてるよね。」
「まぁ、だいたい一人で来た・・・り・・・。」
途中で月島がしまったというような顔をした。
私も今のは口をすべらせたにもほどがあると思い、あっけにとられてしまった。
「・・・・。」
「・・・いや、月島、えっと・・・。」
「・・・笑えばいいじゃん。」
「今のは滑りすぎで笑えないよ。」
といいつつ、照れて喋らなくなった月島を見てニヤニヤしていると、店員さんが頼んだケーキを運んできてくれた。
とりあえずいただきますをして食べ始める。
「ん!おいしい〜〜!本格的なケーキはすごく久々に食べたけど、やっぱり違うね。」
「うん、そこそこ。」
「ねぇねぇ。」
「こっちも欲しいって言うんでしょ。」
「ご名答〜、こっちのもちょっとあげるからさ。」
「女子ってこういうの好きだよね。」
友達とこういうことするの本当憧れだったな〜。
なんて思い出しながらザッハトルテの端をフォークで切って月島に差し出した。
これまでにないくらい自然に笑えたと思う。
「はい、あーん。」
「・・・っ。」
「どうかした?」
「不覚・・・。」
そう言って月島は私の手を少しよせて、差し出したザッハトルテを食べた。