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「研磨のこと知ってどうするの?というか、前にも試合したことあるなら月島のが知ってるんじゃない?」

「・・・君ってさぁ。」

「ちょっ痛い痛い!」

まさか月島が私と研磨のエピソードとか聞かないだろうと思って普通に答えたのに、おでこに割ときついチョップを2、3発くらった。
頭を手で覆って保身して睨みつけると、月島はフンと鼻を鳴らして行ってしまった。
一体なんだったのか・・・。
去って行く月島の後ろ姿を目で追いながら洗い物に戻り、さっさと終わらせて私も待ってくれていた清水先輩と仁花ちゃんとともに宿舎へ向かった。


荷物を運んだ時から薄々分かってはいたけど、そこにあった空間に私は動揺を隠せなかった。

「おーーお疲れ!」
「お疲れさま〜!!」
「布団敷いておいたよー。」

部屋に入るなり、梟谷、森然、生川のマネージャーさん達が一斉に声を掛けてきた。
初めてこの合宿に加わる私たち烏野マネージャーと違って、梟谷グループのマネージャーさんたち要領の分かっているため早く仕事を終えていたらしい。
布団を敷かれていて、さらに結構な量のお菓子とジュースも床に広がっている。

(女子の空間だ・・・・・。)

ちょっとこういうのに憧れていたりしてた。
だけど実際に準備もせずにこのような場面に出くわしてしまうとどうしていいか分からなくて、
入り口で固まってた私を気にして「どうしたの?」と声をかけてくれた仁花ちゃんに、「お、おお・・・。」と変な返事をしてしまった。

そわそわしながら入って荷物の所まで行き、軽く汗を拭いたところで、
黒髪を2つ結びにしている元気でかわいらしいマネージャーさんがこちらにおいでよと声をかけてくれた。
清水先輩と仁花ちゃんについていく形で女子マネの輪にまざると、隣に座っているおっとりしたお姉さんが「1年生?」と声をかけながらお菓子を差し出してくれた。
緊張しながらも、「はい!あ、ありがとうございます。」と言って袋に入っていたお菓子をいただくと
「緊張しすぎだよ〜かわい〜。」なんて言われて、すごく嬉し恥ずかしだった。
多分顔真っ赤だと思う。もひとつ隣の清水先輩が笑ってる。


そんな感じでなかなか上手く入り込めてると自分を褒めながら皆と談笑していると、
ふと梟谷高校のポニーテールのお姉さんが言い出した。

「しかし、清水ちゃんをはじめ烏野高校の女子マネはみんなかわいいね!うちのとこの男子が噂してたよ。」

私と仁花ちゃんが同時に吹き出した。
清水先輩ならともかく・・・と、仁花ちゃんも同じことを思ったんだろうな。

「谷地ちゃんと朝日奈ちゃん驚きすぎ〜。」

「そうそう、2人ともかわいいって。谷地ちゃんは小さくて元気でかわいいとか言われてたし、
朝日奈ちゃんはそうだね、うちにあんまそういうこと興味なさげな赤葦っていうやつがいるんだけどさ、そいつがずっと朝日奈ちゃんのこと見てて驚いた。」

「赤葦って梟谷のセッターの人・・・ですよね?」

「あれ、ご存知?もしかしてもう喋ったりした?」

「い、いえ。そうじゃなくて、私セッターに興味があってその人のことも割と見ていたんですけど、研磨と違ってそんなに目が合うことなかったかなと・・・。」

「へー。まぁあいつそういうとこ上手くやりそうだよね。ていうか研磨って?」

「あ、研磨は音駒のセッターです。」

「えーー!あのプリン頭の子?!呼び捨てし合う仲なの?!お姉さん気になるなぁ〜。」

そうきたかどうしよううっかり口をすべらせてしまった。
研磨の話をするとなると私が元々東京でバレーやってた所から話さなければいけないし、
梟谷グループのバレー関係者ならあの事件の話を知らないとも限らない。
ぐいぐいよってくるポニーテールのお姉さんを上半身だけでよけながら、冷や汗をかいて苦い顔をしていると、
今度は隣のお姉さんがこんなことを言い出した。

「私、朝日奈ちゃんが烏野の大きい子と2人で話してるの見たよー。」

大きい子?と思ったけど多分月島のことだろう。
研磨の方の話を反らしたくてたまらなかった私は、多少不本意ながらもそちらの話に全力で食いついた。

「月島とは・・・!話して、ましたね!!」

「へ〜〜こっちはやけに食いつくじゃない。彼氏?」

「ち が い ま す !!」

「じゃぁじゃぁ、三角関係ってこと?」

「月島も!研磨も!そんなんじゃないですってば!!」

「あはは顔真っ赤!」

その後はとりあえず過去の話はせずにすんだけどお風呂でも寝る前もさんざんからかわれて、
他校の女子マネ先輩方が疲れて寝るのに合わせてやっと自分も就寝できたって感じだった。

次の日、烏野は初戦で日向くんと東峰先輩がぶつかって、日向くんと影山くんのコンビがギクシャクしはじめて、全体に緊張が走っていた。
先生が全体を少しなだめてくれたのはいいけど、日向くんと影山くんは今までのプレイが崩れたことをだいぶ引きずっているようだった。

気になったからこっそり体育館を出ていく日向くん影山くん菅原さんをつけて、出口のすぐ近くに立って聞き耳をたてた。

「あの速攻にお前の意思は必要無い。」

影山くんはそう言い、菅原先輩もそれに賛同した。
私はそうは思わない。
確かにあの速攻を空中でどうこうしようっていうのは難しい。
でもこういうチャンスを逃すべきじゃない。
日向くんが全国レベルのチームを相手にした試合中みつけた勝利への道しるべ。
私は烏野にもっと強くなって欲しい。

ならばどうするべきかな、なんて勝手に考えを巡らせて周りが見えなくなってきていた頃。

「朝日奈お前なにやってんだ。」

いつからいたのか、すぐそこに烏養コーチが立っていた。

「えっ!?あ、いや、ひ、日向くんたちならそこにいますよー。」

あからさまな態度で立ち去る私を見てコーチはコイツ・・・見たいな顔をしていたけど、逃げる意外の選択肢がなかったので仕方ない。
聞いてたのバレバレだっただろうからとても恥ずかしい。

・・・その後はコーチがどういう話をしたのか知らないけど、日向くんは出番なしにされていた。
それでも落ち込まずに自分のチーム、他のチームを真剣に観察する日向くんを見てとても関心した。
やっぱり、さきほど日向くんが言っていたことを諦めるべきじゃない、そう思った。

【あとがき】
本文ではあらわせないことがあったんであとがきにしてみました。

赤葦さんはメインで絡んでくる予定はありません。
あと清水先輩がすごい美人な設定なので翳みますがヒロインも(ちゃんとすれば)結構可愛い設定です。
あと今回ずいぶん更新しなかった割に長くなって申し訳ない。



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