12


確か中学2年になったばかりの頃の話だ。
3年の先輩達に混じって少し遠くの学校に練習試合に行った時、基本的に試合中以外、私は一人だった。
お昼を食べ終わって、やることもないのでボールでも触っていようと思い体育館に行こうとする途中、
1人の男の子がこちらを見ていることに気がついた。
男子達が隣のコートで試合をしていてそれを少し見ていたから、その子が同じポジションだということを分かっていたし、
長い黒髪で背も小さめだったので年下か同い年だと思い込んで、勇気を出して話しかけてみたのだった。
お互いひとりぼっちだったこともあってか、よく話が弾んだことを覚えている。
話す中で研磨が先輩だということを知ったのだけど、
研磨はそういうのが嫌いみたいで結局お互い呼び捨て、タメ口のまま話続けた。
昼休みが終わった後からは一言もかわすことはなかったけど、私が帰る時、遠くからはにかんだように笑って
小さく手を振ってくれたことがとても嬉しかった。

私の数少ないバレー友達。
それから研磨のことを思い出すことは何回かあったけど、そうそう再会することはないだろうと思っていたのに・・・。
今目の前に、こんなに成長した姿でいる。


「すごい・・・研磨だ。」

「うん。」

「研磨、久しぶり。」

「うん。」

「背、のびたね。あと髪、染めたの?」

「みんなに比べたらそうでもないけど。髪は、染めた。」

「すごいプリンになってるよ。研磨のことだから染め直すのサボったんでしょ?」

「・・・・・・。」

私が髪のことをつつくと、研磨が自分の染めた髪をいじりながら少しだけ口を尖らせる仕草をしたのが
可愛くて、懐かしくて、ちょっと笑ってしまった。

「・・・憂はなんで烏野のマネージャーやってるの?烏野って、宮城じゃん。」

「それは・・・色々あって、バレーを続けられなくなっちゃって、転校して。今リハビリ中なの。」

私はスムーズに腕を上げられないことをジェスチャーしながら精一杯の笑顔で言った。
研磨はひどく顔をしかめた後、多分”色々”の部分について聞こうとしたのだと思うけど、
私がどうやってはぐらかすか考えるまでもなく、会話は遮られた。

「ちょっと、何サボってんの?」

「・・・月島?」

後ろから声がしたので見てみると、体育館の出入り口から一歩でた所で気怠そうに立つ月島がいた。
サボってるとは心外だけど、正直助かったのでそこは反応しないでおく。
それよりサボってただけにしては月島の表情が半端無く怖い。
研磨も言葉を発しようとしないし、どう切り返すか悩んでたところにこれまた助け舟が入った。

「研磨と朝日奈さんて知り合いだったの?!」

数秒間流れた冷たすぎる空気を切り裂く明るい声。
月島と同じ出入り口から出てきた日向くんが瞬間移動のように私と研磨の間に入って顔を交互に見ながら言った。

「あ!朝日奈さん東京出身だから?!もしかして音駒高校だったの?!」

「翔陽声おおきい。」

「ちょ、ちょっと会ったことあるってだけだよ。ね、研磨。」

「・・・うん。」

「へー!!!」

「あ!先輩ここにいたっすか!!探したっすよ〜って翔陽も一緒か!!!」

「犬岡ぁ!」

「風呂の時間とかあるんで、皆もう戻ってるっすよ!俺らも行きましょう!」

「おお!そっか!!研磨も行こう!月島は?」

「僕はもう少ししたら行くから。山口と皆にもそう言っておいて。」

「ふ〜んわかった。じゃあ先いってるな!行こう研磨!」

「うん。じゃぁまた、憂。」

「うん、また明日。」

日向くんと音駒の犬岡くんは元気だなーなんて思いつつ、研磨に手を振って見届けた後、
洗鋳物に戻ろうとしたけど、その前に目に入った月島の表情を見て固まってしまった。

さっきより、だいぶ怖くなってる。
怖くなってるっていうかもはや笑ってる。
怖い。

「えっと・・・・・・?」

「ちょっと詳しく聞かせてよ。:

「何をでしょうか。」

「音駒の5番。」


prev next