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「えっ、合同合宿って東京の梟谷グループでやるんですか?!」

「憂ちゃん知ってるの?」

「東京にいたんで、名前だけは・・・。
でも良かった。梟谷の方で。」

「?」

「い、いやごめんなさい。ちょっと個人的な話です。」

と、こんなかんじで合同合宿が東京遠征だと知ったのがちょっと前のこと。
日向くんと影山くんの超人コンビが赤点で補習になってしまって、大騒ぎしている中で聞いた。
そして今日。

「オオッ!あれはっあれはもしやスカイツリー!!?」

「いやあれは普通の鉄塔だね。」

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ」

バスの中で寝てきたので頭がぼやぼやしていたけど何やら面白い会話でちょっと目が覚めた。
隣であくびをする月島と目をこする山口くんを西谷先輩が押していた。
私はちょっと先を歩いていた仁花ちゃんと清水先輩に追いつくと、
急に「うおおおお」という叫声が聞こえて、仁花ちゃんと私は驚いて飛び跳ねた。

「じょっ、じょっ・・・女子が3人になっとる・・・!!!」

変な人・・・!
清水先輩が前に手をだしてガードしてくれてかと思いきや今度は田中先輩が出てきて
「これが烏野の本気なのです」とか言い出した。
男子バレー部のマネージャーを初めて何度も思うことがあったけど、
どうしてこういつも面白い流れに持っていけるのか不思議で仕方ない。
私がちょっとだけ吹き出してしまうと、田中先輩と、田中先輩に虎って呼ばれてた
知らない人が「おぉ・・・笑った・・・。」とかいってまじまじとこちらを見てきたので
恥ずかしくて清水先輩の陰に隠れると、行こうかと促され、烏野マネージャー3人で建物の中に入った。

郊外だから景色はあまり宮城と変わらなかったけど、
こんなに早く東京に戻ることになるとは・・・なんて考えていたのも束の間。
荷物を置いたらすぐに練習が始まって、マネージャーも慣れない場所でそれなりに忙しくて、
他のことを考えている余裕なんて無かった。


アップをとったら全チームで回して試合。
何本か試合が終わった頃には私にも余裕がでてきて、先輩と仁花ちゃんと試合を見ることもできた。
梟谷グループなんだから当たり前だけど結構なレベルの人たちばかり。
梟谷高校4番のスパイクが凄い人はちょっと見覚えがあるかも。
負けばかりとはいえ、東京の強豪校と対等に試合ができている烏野はやっぱり強いんだと思い直して、
なんだかわくわくしてきた。

でもこんな時、やっぱり見てしまうのがセッターの人たちで。
私は主に他校のセッターの方達を観察していた。
それで、まぁ、見てる私がいけないんだけど、さっきからやたら目が合う音駒のセッターさん。
プリン頭で猫目の、今見た限りでは特に目立った特徴のないプレイをする人。
何回も目が合うので途中で軽く会釈をしたら、ちょっと驚かれた後そっぽむかれてしまった。

「なんかあの人、さっきから憂ちゃんのこと見てるね?」

「あ、うん。私が見てるってのもあるんだけど、それにしは何回も目が合うなと思って会釈したら
避けられちゃったみたい。」

「なんだろうね・・・。会ったことある人だったりして。」

「うーん。あり得ない話じゃないけど・・・。」

仁花ちゃんにそう言われて改めて見ようとした時、ちょうど音駒の11番が決めて試合が終了した。
月島も大きいと思ったけど、その月島より一回りくらい大きい。
手足が長くて、色素の薄い人。
基本があんまりできていないから同級生かな、大きいなーなんて思っていたけどやっぱり大きいって得だ。
センスだけでやってるにしろ、見た目にも実際にもすごいスパイクだった。

隣で仁花ちゃんが感嘆の声をあげていて、
私よりもだいぶ小さい仁花ちゃんとあの人が並んだところを想像してちょっと笑ってしまうと、
仁花ちゃんが取り繕ったように笑うので、それが面白くて私はさらに笑ってしまった。



それから私たちも片付けに入って、こういうの、いいなーなんて思いながら1人で洗い物をしていてもうすぐ終わるって時、
「あの」と、小さな声で呼ぶのが聞こえて、私は濡れた手をすこし払って後ろを向いた。

そこには腕を後ろで組んでちょっと俯き加減で立つ音駒のセッターさんがいた。
蛍光灯の光を反射して光る明るい金髪で、顔がほとんど見えない。
さっき目があったことかな、なんて思って私はとりあえず謝ることにした。

「こ、こんばんわ・・・さっきは何回も見ちゃってごめんなさい。
えっと・・・名前・・・。」

「・・・・・・覚えてない?」

そういってゆっくり顔をあげた音駒のセッターさん。
うつむいて恥ずかしそうにしていたのが嘘みたいに、金色の瞳がまっすぐこちらを見つめた。

「え?」

「まぁあのころに比べると背もだいぶ伸びたし、この髪だし、無理ないかもね・・・。」

「えと・・・すいません、私、あなたのこと・・・。」

「君も変わったけど、おれ、すぐ分かったよ。憂。」

「?!」

そう呼ばれてハッとした。
私を名前で呼び捨てにする男の人なんてそうそういない。
ましてやこんな年の近い人なんて、多分この人だけ。
そう考えると、一つだけ心あたりがあった。
数年前、中学生のときちょっとだけ話したことがあるだけだけど、確かにあの時お互いを名前で呼んでいた。
あの頃黒髪で、私より小さかったあの人。


「・・・研磨?」

「あたり。」


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