「憂、いろんな人に見られてたよ。」
「う・・・研磨助けてよ。」
「それは無理。憂の自業自得じゃん。」
「言い返す言葉もございません。」
試合の時間が終わって一息ついた研磨が、おそらく練習中、視線が痛くて少し挙動不審になっていた私を見かねて話しかけに来てくれた。
私は片付けに入る前に記録を取ったノートをまとめているところで、それを見た研磨が露骨に嫌な顔をする。
「なんなら、隙あらば上手くサボってる研磨の分のデータも取ろうか?」
「いい・・・。」
脱力して断る研磨を笑ったあと適当に雑談していると、おおきな影が二つ私を覆った。
「男前レシーブのお嬢さーん。」
「・・・・・・。」
完璧に黒尾さんだと分かる声と言い方に、私と研磨は表情を歪ませながら顔を挙げた。
もう一人は誰かと思ったら月島だった。
何やらやる気が出ているようで、”いいじゃん”という意味ですこし眉をあげて顔を合わせた。
「自チームと元天才のセッター2人の蔑み顔ヤバい。」
「今のは黒尾さんがいけないでしょう。」
「クロ、憂のこと知ってたの?」
「ちょっと昨日聞いてな。それより俺らこれから第3体育館で恒例の自主練なんだけど、また朝日奈ちゃんに手伝って貰えないかなーって頼みに来たんだよね。
ほれ、ツッキーも頼みなさいよ。」
「・・・朝日奈が来たいなら来れば?」
「来てほしいくせに〜〜このこの〜。」
月島はすごく面倒くさい顔してるけど、他校の先輩とこれだけ仲良くできているのはいいことだ。
昨日の件もあるし、赤葦さんもいるだろうし、ちょっと迷ったけど、この光景が微笑ましかったからマネの仕事が終わり次第手伝いに行くことに決めた。
本当に黒尾さんはこういう空気作りが上手い。
心中でこれだけ褒めていることを本人に言ったらどういう反応をするのだろうか。
「研磨も行く?」
「行かない。」
「ですよね。」
―――――――――――――――――
それからは昨日と同じく第3体育館での自主練の手伝いをした後、夕飯を食べてお風呂へやってきた。
昨日もだったけれど、私が最後らしい。
この場に女子は少ないのでそこそこ広い浴場を独り占めだ。
と言っても、そこまで良いものではない。
夜の学校に一人でいるようなものだから普通に少し怖い。
なるべく急いで出て女子部屋に向かおうと廊下に出た所だった。
「朝日奈?女子にしては出るの早くない?」
「お、おい月島!そういう事女子に言うなよ!」
「おー朝日奈ちゃんも今出たのか。」
自主練メンバーと出くわした。
喜ぶべきなのかべきじゃないのか悩む所だけど、月島大勢の前で言わなくても!むかつく!
日向くんがフォロー入れてくれてる。
そんなことを言われたので、とりあえずただ早風呂だと思われるよりもっと女子っぽい所だしてやるという気持ちが強く働いた。
肩にかけていたタオルを両手で掴んで、ちょっと俯きながら言う。
「一人だったから、ちょっと怖くて・・・。」
男子勢がざわつく。
チラっと月島を見るとなんだか怒った顔をしている。
よく分からなくて問い詰めようとしたけど、木兎さんが口を開く方が早かった。
「おっし!じゃあこの中で朝日奈ちゃんが一番イイと思うやつが、朝日奈を女子部屋まで送ることにしよう!」
「おぉ!上手くいけばマネちゃんたち全員に、頼れるやつって印象をつけれるってわけか・・・!」
「そこまで考えてなかった!黒尾天才か!」
「それなら木兎さんと黒尾さんで行って来ればいんじゃないですか。」
「なんだよツッキー!怒るなよツッキー!選んでもらう方が面白いじゃんかー。」
「なんかすいません、朝日奈さん。」
あっという間に展開が進んで、結局私が誰かひとりを選ぶということになってしまった。
月島がなんだか怒っていなかったら月島を選んでいるけど、なんだか怒っているので私はこの人を選んだ。
「じゃ、じゃあ、あ、赤葦さんで。」
黒尾さんでも良かったけど、ちょっと2人で話をしてみたいから。
それにマネージャーの先輩方、仁花ちゃんに一番迷惑にならなそうな人だから。
私が指名すると、赤葦さんの肩がはねた。
「俺、ですか?」
「い、いやならあの、別に!」
「ヒュ〜!いいなぁ赤葦ィ!!」
「ファンだったって言ってたしなぁ〜ヒューヒュー!」
「うるさいですよ木兎さん。」
「俺だけ?!」
茶かす2人を牽制して、赤葦さんは私に視線を向けた。
「じゃあ行きましょうか。」
「よ、よろしくお願いします。」
赤葦さんはあくまで冷静で、私は促されるままについていった。
後ろでまだ木兎さんが騒いでいたので、再び赤葦さんに謝られた。
黒尾さんと月島の声は聞こえなかった。
「ツッキー機嫌なおせよ。」
「別に、普通ですよ。」
「え?月島さっきから顔すごい怒ってるぞ。」
「日向うるさい。」