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(や、やっっっってしまった・・・・・・・・!!!)

その時、静寂のなか体育館中の視線が私に注がれていた。
飛んで行ったボールが研磨の手に収まる。
そのボールは、私が”返した”ものだ。

―――――――――――――――――――――

セミが入ってきたことに気がついた。
コートの枠線より2mくらい離れたところに降りる。

あの位置だと普通にボールを拾おうとした選手に踏みつけられる恐れがあるし、
あの位置までボールを取りに来る時点で体制は整っていないはずだから、踏みつけた方も転んでしまうかもしれない。
なにより鳴き出したら邪魔だろう。

気づいている人がいないようだったからラリーが途切れたところで取りに行ったのだった。
捕まえるところまでは順調だった。
外へ向かう途中で手の中でセミが暴れて、くすぐったさに手を緩めた途端逃げられてしまった。
もう捕まえるつもりはなかったけど、出口とは逆方向へ飛んでいくのでとりあえず行く先を見守っていてもたついた。
その間に森然高校のサーブが始まってしまった。

コートの近くとはいえ端の方にいたし、
サーブの得意な森然高校のキャプテンの人だから、大丈夫だと思っていたけど、暴投はあるものだ。
私がいることで集中ができていなかったのかもしれない。
申し訳ない。

「アウト!」

音駒のすごく上手なリベロの人の声が聞こえたと同時にコートの方を向くと、
そんな私に罰を下すかのように、強烈なサーブはとんできた。
リベロの人の、なんでそんな場所に?!と言わんばかりの驚いた顔が目に入る。

このまま動かなければ右腕に当たる。
とっさに後ろか前に転ぶとしても、腕は支えに使えない。
なにより、この瞬間で一番うまく動けるのが、”レシーブ”だと、そう判断した。
手首であれば大した負担にならない、選手に変なトラウマも植えつけない。
あと、やってみたかったから。

片膝をついて、アンダー。
生憎自分にくると分かっている強打こそ慣れている。
意外な所から綺麗なレシーブが決まって、体育館中が一瞬、静まり返る。
その後「エェー」とか「ヘイヘイヘイヘーイ」だとか、いろんな声が飛び交う。

「えっ、あっ、あの、なんかすいませンンンン・・・!」

ボール自体は何事もなく捌ききった安心感からその場にへたりこんでいると、音駒の人たちが駆け寄ってきて起こしてくれた。
手を引いてくれた黒尾さんが小声で言う。

「セッターだったって聞いてたけど、レシーブも上手いのな。」

全員レシーブ力の高い音駒高校のキャプテンに言われたのが嬉しくて、
「どうも。」と笑顔で返すと、黒尾さんはヒュウと口を鳴らしてニヤッと笑った。

「じゃ、ツッキー後はよろしくー。」

ハッっとして前を向くと、ペナルティから帰ってきたであろう月島がいた。
な、なるべくなら知られたくなかったのに・・・!

「・・・朝日奈、何かあったんですか?」

「森然のキャプテンのアウトのサーブぶつかりそうになってレシーブで綺麗に返した。」

「は?」

「別になんともないみたいだけど、俺ら試合中だから後よろしくってことで。」

言いながら手をヒラヒラさせてコートへ戻る黒尾さん。
くそ睨んでくる月島。

「何したって?」

「・・・とある事情でコート端にいたらですね、ちょっと森然高校のキャプテンの人のサーブがですね、
腕に当たりそうだったからですね、当たるよりはと思ってですね。」

「本音は?」

「レシーブしてみたかったからです。・・・ぁイタッ!痛い痛い!」

真顔で頭にチョップしてきやがる・・・!
割と本気で・・・!
やっと終わったと思っても無言、怖い、痛い。
昨日も泣いたのに今日も結構な涙目になってしまっている。

「す、すみませんでひた・・・!」

「・・・大丈夫なの?」

「大丈夫です、むしろ今のチョップのが大丈夫じゃないですァイタぁあ!」

最後にでかいデコピンを決められて終了。

「〜〜〜〜〜っ!!!!」

「憂ちゃん大丈夫だった?なんか、い、いろいろ・・・。」

「な、泣きそう。」

「ええ〜〜〜!」


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