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「あの。」

「は、はい。」

「あぁそうか!その子、赤葦がチッラチラ見てた子だ!チラッチラと!!」

「木兎さんは黙っててください。」

「赤葦ひどいっ!」

そういえば梟谷のマネさんがそんなことを言っていたっけ。
今朝も何故かあの時間あの場所にいたけど、何か用があったのかも・・・?
私何かしたっけ・・・?!

少し冷や汗をかいている私にこの場にいる全員の視線が向いていた。

「何かアドバイスとかありません?」

「・・・・・・は、はい?」

「ヘイヘイ赤葦、その子はマネージャーだって。何を言ってんの?」

「いや、木兎さん!朝日奈さんてすっげーバレー詳しいんスよ!!」

「ほー。そんで、なんでそれを赤葦が知ってるわけ?」

冷や汗がどっと出た。
どうして赤葦さんがそんなことを言ったのか、私のことを見ていたのか、合点がいく理由は、一つだけだ。

「俺、あなたのこと知ってますよ。朝日奈憂さん。どうして烏野にいるのかもです。」

「・・・そう、ですか。」

「意外かもしれませんが、偶然見た女バレの試合を見てからあなたのちょっとしたファンだったんですよ。
なので同じセッターとしてちょっとしたアドバイスとか貰えたら嬉しいんですが。」

赤葦さんの言葉には全く悪意はなく、むしろ好意的なものだった。
それなのに、全然平気だと思っていたのに、実際、第三者に”そのこと”を突きつけられると、
悔しさとか、色々なものがこみあげてきて、涙を堪えることができなかった。

「?!・・・あ、あの。」

「赤葦、泣かした?!」

「朝日奈さん?!こ、ここここういうときどうしたら・・・!リ、リエーフ!ほら、ロシアとでそういうのないの?!」

「日本生まれ日本育ちだって言っただろ!俺もわかんねえぇ・・・!」

「朝日奈さん。ご、ごめんなさい。ちょっと無神経だったかもしれません・・・!」

大丈夫、そう言おうとしても嗚咽を抑えることと立っていることに精いっぱいで口を開くことができない。
どうしようもなくて、このままずっと見られていたくなくて、逃げ出そうとした時、
肩に手を回されて、回した当人の方へ抱き寄せられた。
少しだけ立ってる力が必要なくなって、楽になる。
確認しなくたって誰なのか分かる。

「だめだった?」

大丈夫?とかじゃなくて第一声でそういう風に聞くのが月島らしくて安心する。
ほんの少しだけ、いつもの調子に近づいて、月島の胸を軽く小突く。

「大丈夫みたいです。反動みたいなものだと思います。」

「そう・・・よかった。」

「月島はなんか知ってるのか?」

「・・・話してもいい?」

月島はこのまま話さないで終わるものかと判断したのだろう。
きっと、こういうことになるのではないかと心の奥で察していたからなるべく人に言わないでおいただけで、
元々別に隠してるわけでもなかったから、うなづいて肯定した。

月島は私が月島に打ち明けた過去を簡潔に話した。
日向くんとリエーフくんは驚いて言葉もでないようだったけど、
黒尾さんと木兎さんは、事件について多少覚えがあるようで、察したような顔をしていた。

「・・・・・・ごめんなさい、取り乱して。」

「いえ、こちらこそ、すみませんでした。」

「い、いや、ほんと全然、赤葦さんは悪くないです!むしろ、今経験できてよかったです。いつかこうなったと思うので。」

「そうですか・・・。でも、本当すみませんでした。」

「本当に大丈夫なので・・・!あと敬語!私1つ下じゃないですか!」

私もだいぶ落ち着いて、いつも通りになったみんなで話はじめてすぐのこと。
梟谷のマネさんが来て夕飯の時間が終わってしまいそうであることを知らせてくれた。
日向くん、木兎さん、リエーフくんのの顔色が変わって食堂へ一刻も早くダッシュする方向にシフトする。
私でさえ夕飯抜きは致命なのだから、選手として動いている皆にとってはもっと由々しき事態だろう。

「朝日奈も夕飯食べてないんデショ。行くよ。」

そういわれて肩かた手を離されて少しだけバランスを崩す。
それで今までずっと支えてもらっていたことに気が付いた。
月島の時は、私が少しやらかしたのが始まりとはいえ、あんな関係から始まってなんだかんだこんな関係におちついてるけど、
本当に月島がいてくれてよかった。

バランスを持ち直して月島の方をチラ見すると、バッチリ目があう。

「ありがと。」

すごく素直な気持ちでお礼を言えた。
今朝とはまた違ういい表情ができたと思う。
月島は今朝とは違って、顔をそらさず、逆に私がうつむいて月島の顔が見えなくなるように私の頭に手をおいて、
髪をわしゃわしゃしながら「早く行くよ」と言うのだった。


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[オマケ〜食堂にて〜]

「いやぁ〜〜朝日奈ちゃんの話も驚きだったけど、ツッキーが優しすぎたのも驚いた!」

「えっ?!何?月島と朝日奈さん何?!」

「それな!ツッキー!つきあってんの?」

「ちょ、ちょっとそういうのじゃないって前から言ってるじゃないですかっ!

「照れんな照れんな。」

「ツッキーてやめてもらっていいですか。」

「月島はそこなの?!」

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※補足※
クロが赤葦さんのことを呼んでいるシーンを見つけられなかったので、適当な二次創作を参考にしています。
もしそんなシーンがあって間違ってたらすみません。