NOVEL(Short4) | ナノ




Sleeping beauty


1

受け視点

奇妙な、夢。
瞼を開けて広がった世界を見た僕はその瞬間にこれは夢なんだと自覚した。
一面真っ白な銀世界の中、僕は一人佇んでいた。深々と降り積もる雪を見て、白い息を吐きつつも寒さを感じなかった。寧ろ、とても過ごしやすいくらいの気温なのに、何故か厚着をしている。
そんなちぐはぐな世界に僕は居た。

ずっと此処に居たらいつか雪に埋もれてしまうんじゃないかと思った。雪が乗って上手く上がらない足を上げながら、歩き始めた。
ざく、ざく、ざくと音を立ててふと、後ろを振り返った。音も立てない雪が踏みしめてきた箇所に降り立ち埋めていっている。数メートル先には、もう自分の足跡は残っていなかった。僕は前を向いてまた、歩き始めた。

どれくらい歩いたのか分からないけれど、歩き始めてから暫く経った時の事だ。
真っ白な雪の上に微かに色が見えた。距離からしてそう遠くない位置に何かが居る。思わず、片手を挙げ左右に振って、声を出した。ところが、何も反応は返ってこなかった。もしかしたら聞こえていないのかもしれない。先程から微動だにしないそれには、直ぐに追いつく筈だ。そう、動いていないものだと気付きながらも、僕は迷わず向かっていた。

だいぶ近付いた時、真っ白な地面に赤が映えるようになった。水滴を垂らしたかのように一定の間隔で赤く染まっていた。僕は立ち止まる。それが何かを想像してから、心臓がばくばくと、煩い。

***

「あ、やっと起きたのね」

頭上からした声に肩を大きく震わせ、顔を上げた。急に場面が変わって思考が追いついていない。目の前で珈琲を煎れている彼女が何か怖い夢でも見た?と笑っている。それに頷き、珈琲のおかわりを下さいと、かさついた声で注文した。
先程まで飲んでいたであろうコップは空だった。

辺りを見渡したところ、客として座っていたのは僕だけだった。腕時計を確認すると、閉店時間を過ぎていた。きっと煎れている珈琲は閉店後の彼女用の珈琲だ。お店が終わると、大体自分用に珈琲を煎れている。

「はいはい、畏まりました。無糖で良いのかしら?」
「・・・いや、やっぱり、珈琲は止める。ホットココアを貰ってもいいかな」
「あら、やだ、珍しい。そんなに怖い夢でも見たの?」

彼女が大きな声を出して笑い始めた。
確かに珍しいかもしれないけれど、たまには甘い飲み物だって飲みたい。確かに先程見た夢が原因だけれど、こんなに大きな声を出して笑うのは失礼ではないか、と文句の一つも言いたいところだが、喉まで出てきたところを押し込み、早くココアを頂戴と催促をした。

惚れた弱みだ、喧嘩に発展するような事はしたくなかった。涙まで浮かべた彼女はやっと、僕の注文したものを準備し始めた。

「直ぐに出来るからもう少し待って頂戴」

右斜め下に視線を向け、少し伸びた前髪を耳に掛ける仕草はとても色っぽく見え、思わず彼女を見たまま呆けてしまった。

「ふふ、変な顔で見つめないでよ」

***

「僕は如月翔(きさらぎかける)って言うんだ。これから三年間、ルームメイトとして宜しく」
「うん、宜しくね。僕は、須藤貴一(すどうきいち)って言うんだ。仲良くやっていこうね」

また、飛んだ。そう思った。
彼女との微睡むような光景が夢だった事に残念だと思った。今の僕は、高校生といったところか。全寮制の高校に入学した僕は、二人一組の寮生活を送ろうとしていた。
そこで、出会ったのは同学年の翔だった。
好青年といった印象を持った。きっと、友達も多く人気者になるタイプだ。そんな青年とこれから過ごしていくのはある意味大変だなと思っていた。

翔は確かに分け隔てなく色んな人に接していた。老若男女に愛されていたと言っても過言はない。確かに、そんな翔に対して妬みから来る嫌がらせはあった。すぐになくなったけれども。

***

「ねえ、貴一。貴一だけは、僕を裏切らないでほしい」

いつ頃だろうか。
翔が僕に執着するようになったのは。
この頃にはもうその片鱗を見せていたと思う。抱きしめられ、その腕の中に居た僕は懐かしい匂いに瞼を閉じた。

翔は何度も裏切らないでほしいと言っていた。信頼出来る人が欲しい、と。家族間で上手くいっていないのは、少しだけ翔から聞いていた。その為、全寮制の高校に入学したことも。その影響だろうか、身近にいる僕に執着し始めた。
僕に執着していると、僕でも分かり始めた頃でも、翔には、途切れず恋人が居た。全て長続きしていなかったようだけれども。僕を優先してしまう翔に恋人の方が我慢出来ないようで、別れる。そしてまた新しい人と付き合うの、繰り返しだった。
そんな立ち位置にいた僕は、勿論痴話喧嘩に巻き込まれる事もあった。翔は必ず僕を守ってくれた。貴一は俺の大事な友達だからねと言って外から守ってくれていた。それが、どうしても耐えられなかったんだ。

だから、あの時の僕は、高校卒業と同時に翔から離れようと密かに決意していた。それが翔の言う裏切りだとしても。


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