昨晩の夜食はカップラーメンであったとひと目で分かる。ベッド脇のサイドテーブルからペットボトル飲料を派手に落とし、手持ち無沙汰のままの右腕をベッドからたらしたまま、平良はぼんやりと目をさました。

「あ、先輩、やっと起きた」
――ああ、思い出した。昨晩は出右手と眠ったのだ、無論ふたつの意味で。
出右手は頬杖をついて満面の笑みで平良を見つめている。
くそ、この笑顔に弱い。惚れた弱味か、つられて綻ぶ笑顔があるのだと初めて知った、それが彼の笑顔だった。

彼は何も知るまい。この何気ない日常を手にするまでに、自分が何をしてきたのかを。幾度となく体を売った。その金で出右手への贈り物を買えば、彼ははにかみながら笑顔で受けとるのだ。大切そうに大切そうに包み紙を抱き締めながら。

出右手がおはようございますと言いながら、平良に軽く口付けをする。出右手は何も知らない。平良はそっと唇を離しながら、彼を思い出す。笑いあいながら食べたカップラーメンの容器の底の残滓が、まだ乾ききらぬまま薄明かるい朝の日を跳ねていた。
「先輩、お腹空いたでしょう。今朝御飯を――」
「豊」
彼の言葉を遮って、ふたたびベッドへ引き戻す。
「もう一度」
面食らった、それでも心臓の音が聞こえそうなほどに赤らめた顔は、既に返事を肯定していた。愛おしかった。

日の次第に高くなる部屋で、平良は出右手にそっと愛撫を施す。堪えきれぬ快楽に、彼が押し入ってきたそのとき、平良は真白な天井を見つめて愛しい恋人を腕にいだきながら、ただ泣いた。
出右手と呟けば、優しい声が返ってくる。続けるはずだった言葉は、しかし今日も喉元で卑怯に消えた。一人になりたくなかった。

今日も明日も、平良は出右手の名だけを呼び、卑劣に言葉を閉ざす。
エゴイズムにまみれて汚れたのは、さて、心か。体か。



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