薄暗い部屋だった。小奇麗にタイルの張られた床に似つかわしくない沈黙が支配している。
黒裂真命は、真昼の陽光が反射する天井を見つめながら、千宮路大和に犯されていた。
敬愛する聖帝の解任を耳にしたその瞬間から、黒裂は己の意味すら見失っていた。今まで性行為にあたり、散々に抵抗されてきた千宮路にとってはそれが面白くない。何のことはない、フィフスのお人形だと思っていたものが、よりにもよってただのお飾りにすぎぬイシドシュウジ、そのただ一人のお人形だったというわけだ。
ペニスを乱暴に最奥へ突き込む。割り裂かれた秘部からまた乱暴に引き抜く。臓器を内側から焼ききられるような痛みに、それでも黒裂は声ひとつ漏らさなかった。ただ憎しみのこもった瞳で、光を失ったかのような瞳で、彼は千宮路を見ていた。
「…何か、言え」
黒裂は答えない。長い栗毛を掴みあげて、意図的に痛みを感じるよう直腸深くでペニスを律動させた。睨みあげる黒裂の視線が強くなる。それでも彼の顔は歪まない。
チッと舌を鳴らし、千宮路は今ひとたび黒裂を冷たい床に押し付け、今度は思うさま自らの快楽のためだけに黒裂の内部を掻き回した。
ほどなく千宮路が果てる。後半戦の開始を待つ観客のざわめきが水の中にいるかのように鼓膜に膜をつくる。身支度をした千宮寺が部屋を出てゆく。床に力なく転がされたままの黒裂がふと視線を下げる。淡い黄色のユニフォームは汗に濡れ肌に張り付いていた。引き剥がされた半ズボンを、半ば脱げかかったソックスを、かつて彼は誇りと共に身に纏った。
「聖帝」
壁一枚隔てられた遠い遠いグラウンドに、千宮路大和は、誇らしげな表情で歩み出ているのか。観客の期待と歓声を思うさま浴びて後半戦を戦うというのか。
「聖帝」
黒裂は淡い黄色を抱きしめて泣いた。もはや再会できるかどうかも定かではない彼を思って泣いた。
黒裂真命は、イシドシュウジを愛していた。愛し、敬い、崇拝し、そしてこの世の誰よりも、彼を慕っていた。

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